"7年前に失踪した夫は、12年前から目が見えない" 第8話
「……倉見の倉庫か。あそこはのに再発計画が頓挫して、今はち入り禁止の国予備軍になっているはずだ。だが、おかしいな」
刑事が元の端末を叩き、管轄の登記と解体事台帳を照会した。
「の……まさに直さんが失踪した、この第4倉庫の内部フロア全面に、緊急のコンクリート打設事が入っている。発注元は……民の医療法関連の施設管理会社だな」
「藤原の息がかかった会社ですね」
私の声が震えた。
「用途変更の届けもされていない。の亀裂補修という名目で、メートル以のさでコンを流し込んでいる。異常だ」
刑事が顔をげ、私の目をじっと見据えた。
「奥さん、覚悟はできていますか。を入れて掘り返すとなれば、もう戻りはできませんよ」
「お願いします」
秒の躊躇もなかった。
。 が煙る倉見の業帯。 錆びた波トタンの壁に囲まれた、巨な第4倉庫のに、警察の規制線が何にも張られていた。
鑑識のい防護を着た捜査員たちが、材を運び込んでいる。 持ち込まれたのは、探査レーダーだった。
輪のついた器が、分いコンクリートののをゆっくりと滑っていく。 モニターを覗き込む鑑識官の表が、ある点で凍りついた。
「点メートル……空洞、および異物反応あり」
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乾いた図とともに、のアタッチメントが唸りをげた。
コンクリートブレーカーの削岩音が、を塞ぎたくなるような爆音となって倉庫内に反響する。 び散るの。 コンクリートが砕け散るたび、私の臓が削り取られていくようだった。
悠真は私の隣で、唇を血がるほど噛み締め、両を組んで祈り続けていた。
「神様、頼むから……き延びて、どこかで逃げていてくれ……」
息子のさな祈りは、容赦ない現実によって引き裂かれた。
作業始から。 砕かれたコンクリートの破片の底、粘質のたいのから、鑑識官の張り詰めた声ががった。
「作業止! ……たぞ!」
警察官たちが斉に穴の周囲へ駆け寄る。 のうい穴の底。 に汚れた、青黒いポリエステルの切れ端が見えた。
直があの、張に着ていくと言って羽織っていった、濃紺のウィンドブレーカーだった。
そのから、完全に骨化した蓋骨と、細い指の骨が覗いていた。
膝から崩れ落ちた。 コンクリートのたさがタイツを通り越して皮膚に染み込んでくる。 胃液が喉までせりがり、私はそのに両をついて吐いた。
「父さん……! 父さんッ!」
悠真が規制線を越えようとして、複数の警察官に羽交い締めにされた。 息子の絶叫が、暗い倉庫の鉄骨にね返り、虚しく響き渡る。
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きていてほしかった。 記憶を失っていても、誰か別の女と暮らしていても、私のことなんて完全に忘れてしまっていてもよかった。 ただ、この空ののどこかで、息をしていてほしかった。
。 あのは、も届かないたいコンクリートの底で、きりで埋められていたのだ。
翌、神奈川県警本部の霊。 の解剖台のに置かれたトレイには、を洗い流された遺留品が並んでいた。
免許証の入った革財布。 そして、にまみれながらもの輝きを失っていなかった、セイコーの腕計。
裏蓋には、さな刻印があった。
『1999.10.12 N to M』
私たちの結婚記。 私が最初のボーナスで直にプレゼントした、物の計だった。
科学捜査研究所のDNA鑑定結果のを渡された。 『元確認:直氏(享)と判定。因:部打撲による蓋底骨折、窒息の疑い』
類にサインをする私の指は、もう震えていなかった。 涙もなかった。 ただ、胸のが空っぽの洞窟のようにえ切っていた。
夫は、殺された。 あの、息子を救うためにこの所へ呼びされ、を殴られ、まだ息があったかもしれない状態で、コンクリートのへ流し込まれたのだ。
霊のい鉄の扉をけ、悠真とで警察本部の暗い廊へた。 息子は魂を抜かれたように、私の腕にすがりついて歩くのがやっとだった。
そのだった。
廊の向こうから、革靴の澄んだ音が響いてきた。