"7年前に失踪した夫は、12年前から目が見えない" 第7話
逃げたんじゃない。 息子を犯罪者にしないために、悪魔の求を呑むためにかけていったのだ。
「直はどこへったの?」
私の問いに、修司はベッドサイドの引きしから、古い革のシステム帳を取りした。 直が失踪する、修司のポストに密かに投函していった帳。 玲子が恐ろしさのあまり、今まで誰にも見せずに隠していたものだった。
帳の最のページ。 殴りきされた文字。
『藤原と会う。原本は渡さない。悠真の画を消させるまで戻らない』
そのには、最に呼びされた指定所が記されていた。
『倉見業区・第4廃棄物倉庫』
、直のスマートフォンの波が完全に途絶えた、最の点だった。
帳の活字を睨みつけたまま、私はその夜、もできなかった。
『倉見業区・第4廃棄物倉庫』
、私のので鳴り響いていた「なぜ逃げたのか」という呪詛が、ガラガラと音をてて崩れていく。 夫は逃げてなどいなかった。 あの、歳の息子を科者にしないためだけに、で化け物の懐へび込んでいったのだ。
翌朝、現実の報復は容赦なく玄関のドアを叩いた。
朝の。聞を取りに玄関をけた瞬、臭い械油の異臭がを突いた。
郵便受けの真、コンクリートのタタキ面に、真っ黒なエンジンオイルがぶちまけられていた。
広告
オイルののに、枚のい封筒が落ちている。 宛名はない。 震える指で封を破ると、そこには悠真が来から入社する予定の、専商社の事部宛ての推薦承諾のコピーが入っていた。
そして、ボールペンで殴りきされた。
『内定取り消しは、話本で済む』
息が止まりそうになった。
なぜ、息子の内定先までっている? 就職が決まったのは、先のことだ。 親族と学のキャリアセンターしからないはずの個報が、完全に筒抜けになっていた。
さらに、午には私のスマホが鳴った。 パート先のスーパーのからだった。
「さん、悪いんだけど……今週のシフト、全部させてもらえないかな。さっき本部の苦窓に、君が反社会なと銭トラブルを起こしているって怪文が届いてね。が騒ぎになってるんだよ」
の先から、サーッと血が引いていく。
これが、藤原誠のやり方なのだ。 殴り込みに来るわけでもない。鳴り散らすわけでもない。 ただ、私たちが細々と守ってきた慎ましい常のを、側からコンクリートで固めて窒息させる。 「世体」と「息子の未来」という、母親が最も恐れる急所を正確に踏み躙ってくる。
「母さん、もうやめよう」
背で、悠真がボロボロの声をした。 昨夜からもしていない息子の目は、赤く充血していた。
広告
「俺が就職を辞退すればいいんだ。警察に全部話して、俺が鑑別所にけば……母さんにこれ以、迷惑はかからないだろ?」
「馬鹿なこと言わないで!」
私は息子の胸倉を掴み、叫んでいた。
「あんたは誰も殺していない! 正当防ですらない、が仕組んだ茶番の具にされただけよ! ここで黙ったら、お父さんが何のために命を懸けたのか、本当に分からなくなるじゃない!」
所の交番になどかない。 の捜索願を「成男性の自発失踪」として処理した現の警察官に、この悪の全貌は理解できない。
私と悠真は、佐々から無理やりかせた自認と、消防局の軽症搬送記録、そして直の帳のコピーを鞄に詰め込み、横浜区にある神奈川県警察本部へ直した。
総受付で「失踪事件の相談」と告げると、最初は活全課の窓へ回されそうになった。 私は窓の仕切り板を叩き、佐々の自認を突きつけた。
「これは失踪ではありません。の殺未遂を装った恐、そして証拠隠滅を目とした監禁、あるいは……殺の事案です」
窓の空気が変した。 通された奥の取調で、捜査課の犯係の刑事が、私たちの話を聞いた。 帳の最の跡、佐々の証言、そして悠真がに送りつけられた脅迫画。
刑事が帳の『倉見業区・第4廃棄物倉庫』という文字にペン先を落とした。