"7年前に失踪した夫は、12年前から目が見えない" 第3話
この男は、悠真をっている。
「あなた、やっぱり直――」
私が踵を返し、その腕を掴もうとした刹だった。
「母さん」
いたドアの隙から、ひどく掠れた声が落ちてきた。
臓が止まるかとった。
そこにっていたのは、私の息子、悠真だった。
学の講義にているはずの。 就職活のために調した、まだ着慣れない黒いリクルートスーツ。 息子は蒼な顔で、ドア枠を両でく掴み、そのに縫い付けられたようにち尽くしていた。
宮本修司が、その声を聞いた瞬、顔の肉を激しく歪めた。 恐怖と、絶望が入り混じった顔。
「悠真……? 悠真なのか!?」
目が見えないはずの男が、息子の声のする方向へ向かって、震える両を宙に彷徨わせながら叫んだ。
「なぜ母親を連れてきた! 母親には絶対にらせない、わせないと……、おは俺と約束したはずだろうが!」
……は?
?
言葉のが、脳内で像を結ばない。 目ので起きている景が、まるで別の言語で紡がれているかのように理解を拒絶する。
息子の顔を見た。 悠真の唇はに変し、喉を刻みにさせている。 スーツの袖から覗く指先が、目に見えて震えていた。
「悠真……? あんた、どういうこと?」
私の声は、ひどく擦っていた。
「このと……会ったことがあるの? からってたって……悠真、何の話をしてるの?」
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息子は、私の目を見ようとしなかった。 線をに落とし、固く握りしめた拳を太ももに押し当てている。
「母さん……」
息子のから、消え入りそうな声が漏れた。
「ごめん。……ごめん、母さん」
宮本玲子が、吐き捨てるように言った。
「ていって。族の痴話喧嘩なら、でやって頂戴。修司の臓に毒だわ」
私たちは病院を追いされた。 非常階段の踊り。たいコンクリートの壁に囲まれた空で、私は息子の胸ぐらを掴んでいた。
まれて初めて、が子に向けた暴力だった。 、度だってをげたことなどなかった。
「話しなさい! 全部話しなさいよ! あのは誰なの!? お父さんはどこにいるの!?」
「母さん、やめてくれ……痛いよ……」
「痛い!? 痛いのは私のほうよ! よ!? 、あんたを学にかせるために、スーパーの夜勤と朝の清掃を掛け持ちして、お父さんがいつ帰ってきてもいいように鍵も変えずに待っていた私のは何だったの!? あんたはからあのをってたの!? 答えなさい、悠真!」
息子の瞳から、粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。 黒いリクルートスーツの襟元に、黒い染みが広がっていく。
「双子なんだ」
階段の踊りに、息子のい告が落ちた。
「……は?」
「父さんと、あの修司伯父さんは……卵性の双子なんだよ。まれてすぐに別々のに引き取られて、ずっとお互いのをらずに育ったんだ」
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双子。
直に、双子の兄弟がいた? 結婚して、直のからそんな話は度もたことがなかった。 義理の両親の法の席でも、誰としてそんな話題をにしなかった。
「じゃあ……あのは、直じゃないの?」
「違う。あのは宮本修司だ。に本当に事故に遭って、目が見えなくなったんだよ」
なら、私の夫は? に消えた、あのはどこへったの?
「じゃあお父さんは!? お父さんはどこにいるのよ!」
悠真は顔を両で覆い、そのにしゃがみ込んだ。
「俺も……らないんだ」
「嘘をつかないで!」
「本当なんだよ! 俺だってらないんだ! 父さんがきているのか、んでいるのかすら……!」
「じゃあ何で、から伯父さんと会ってたの!? 何で私に黙ってたのよ!」
悠真は膝を抱え、嗚咽を漏らしながら首を横に振り続けた。
「言えるわけないだろ……! 言ったら、母さんまで巻き込まれるって……俺のせいで、全部俺のせいで父さんが消えたのに、母さんに言えるわけないだろ!」
非常階段の乾いた空気が、息子の絶望な叫びを吸い込んでいく。
何を問い詰めても、悠真はただ泣き崩れるだけだった。 これ以問い詰めたら、この子の精神が壊れてしまう。 母親としての本能だけが、かろうじて私にを引かせた。
私たちは、言も交わさないままに乗り、アパートへ戻った。
、直がいつ帰ってきてもいいようにと、賃を払い続けてきた築の古い賃貸。