"7年前に失踪した夫は、12年前から目が見えない" 第1話
画面に映った男ののろには、見慣れたセンチの傷痕があった。
包丁を握っていたが止まり、刻みかけのキャベツがまな板からシンクへ転がり落ちた。
呼吸が、喉の奥でつかえる。
曜の朝、何の気なしにつけていた方テレビのニュース。 域福祉の現を紹介する、ありふれた特集コーナー。
そこに、に消えた夫・直の顔があった。
……嘘でしょ?
テレビの枠を掴みそうな勢いで、画面に顔をづけた。 輪郭、い唇、筋の通った横顔。 言葉に詰まったとき、の眉だけをわずかに持ちげる癖まで、何ひとつ違わない。
直だ。 違いなく、の初、「仙台へ泊の張にってくる」と言い残したきり、煙のように消えった私の夫。
あのが、きている。
臓が肋骨を突き破りそうなほど激しくねがった、その瞬だった。 アナウンサーの落ち着いたナレーションが、私の鼓膜を容赦なく切り裂いた。
「――事故による失を乗り越え、覚障害者の自支援に携わる宮本修司さんです」
ミヤモト、シュウジ?
男の隣に並んで座る、綺麗なを着た代半ばの女が、マイクに向かって穏やかにをげた。
「夫の修司は、慮の事故により両目のを失いました。あの絶望からここまで歩んでこられたのは……」
……は?
待って。
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?
の芯がぐらりと揺れて、元が崩れそうになる。
夫が消えたのは、だ。 当、息子の悠真は歳、受験を控えた学だった。
失踪したの朝だって、直は玄関先で悠真の肩を叩き、「部活、しっかりってこいよ」と笑っていた。 そのまま自分の軽自のハンドルを握り、息子を駅の交差点まで送っていったのだ。
あの、あのは普通にを見てを運転していた。 両目が見えないわけがない。
から全盲の男が、に息子の送迎などできるはずがない。
……どういうこと? 私の記憶が狂っているの? それとも、テレビに映るこの男は、夫の皮膚と骨格を完璧にコピーした赤のなのか。
指先が刻みに震え、スマホのカメラを起するのにもこずった。 画面が切り替わる直、テレビのに表示された文字を辛うじて連写する。 『取材協力:横浜央総病院 リハビリテーション科』
パート先のスーパーに欠勤の連絡を入れた。 体調良を理由に休むなんて、直が消えてから活費を稼ぐためにがむしゃらに働いてきたで、度もなかった。 でも、そんな世体を気にする余裕はミリも残っていなかった。
にび乗り、横浜へ向かった。 窓を流れる並みはどこまでも現実なのに、私ののだけが異界に放りされたようにえ切っている。
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病院の総受付で、スマホに保した静止画を突きつけた。
「この……宮本修司さんという方に、どうしてもお会いしたいんです」
対応した配の護師は、私の青ざめた顔と切迫した声に気圧されたようだった。 名簿の端末を叩き、怪訝そうに眉を寄せる。
「宮本さんなら、本午から階の科リハビリで歩訓練の予定が入っていますが……ご親族の方ですか?」
「親族、です。……たぶん」
「え?」
「いいえ、昔のりいです。どうしても、目だけでいいので確認させてください」
本当に、実する。 宮本修司という男が、この病院に実している。
エレベーターを使わず、階段を気に駆けがった。 階のフロアに漂う消毒液の臭いが、の奥をツンと刺す。
い廊の突き当たり、リハビリのにあるさな談話。 窓際の角に、背を丸めてパイプ子に座っている男がいた。
あの背の丸まり方。 になるといつも寒そうに肩をすくめていた、直の癖そのものだった。
音が、に擦れる。 私の気配に気づいたのか、男がゆっくりとこちらに顔を向けた。
……直。
喉までかかった名が、声にならずに消えた。 顔は、紛れもなく夫だった。 目尻に刻まれた笑い皺も、たぶの形も、すべてが記憶のの直と同じ。
だが、その瞳は、暗い硝子玉のようにを宿していなかった。
男の線は私の顔を結ぶことなく、私の鎖骨のあたり、何もない虚空をぼんやりと彷徨っている。