"無償の介護係だった嫁" 第18話
【18】 テーブルののめた弁当と、「全部終わったよ」
午を回った頃、私は駅のスーパーで買い物を済ませ、自宅のマンションへと戻った。
鍵を差し込んでドアをけると、玄関には健司の革靴が無造作に脱ぎ捨てられていた。
廊の奥から、かすかにテレビの音が聞こえる。
かつて全体を覆っていた、あのツンとしたアンモニアと湿布の入り混じった独特の活臭は、もうどこにもない。
消臭剤の微かな柑橘系のりが漂っているだけだった。
「ただいま」
私が声をかけると、リビングのドアがいた。
てきた健司は、ユニクロのスウェットに着替え、首にタオルを巻いていた。
その顔にはらかな疲労のが滲んでいたが、どこかすっきりとした表をしていた。
「おう、おかえり」
リビングに入ると、ダイニングテーブルのに、所の弁当のレジ袋が置かれていた。
には、まだほんのりと温かい鮭弁当と、ペットボトルのお茶。
袋の端に、『遅くまでお疲れ。真奈美の分買っといた』とかれた健司のメモが貼られていた。
「母さんは?」
私がの方へ目を向けると、引き戸は静かに閉ざされていた。
「半に寝たよ。薬もちゃんとんだ」
健司は蔵庫からたいを取りし、コップに注ぎながら言った。
「……実はさ、夕方デイサービスから帰ってきた、ちょっと痢便やらかしてな」
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「えっ……丈夫だったの?」
私の体が、条件反射のようにへ向かいかけた。
の癖が、無識に私の背筋を張らせる。
「おいおい、丈夫だって」
健司が苦笑いして、私の肩を制するようにを挙げた。
「訪問護ステーションに話して指示仰いだら、護師さんがすぐ来てくれたよ。腸剤ませて、オムツもしいのに替えてくれた。シーツはちょっと汚れちまったけど、塩素系漂剤につけて、さっき洗濯回し終わったところだ」
健司はを気にみ干し、ぷはっと息を吐いた。
その首には、ゴム袋の跡が赤く残っていた。
「最初は焦ったけどな。岸さんからもらった緊急連絡先のファイル見ながらやったら、なんとかなったよ」
「……そう」
私は息を吐きし、張っていた肩の力を抜いた。
「何か、私に伝えることはある? 薬の確認とか……」
私が尋ねると、健司はさく首を横に振った。
「いや、いいよ。全部終わったから」
健司はタオルで首の汗を拭いながら、穏やかな顔で私を見た。
「ただ……報告しただけ。おにもっておいてほしかったからさ」
「……そっか」
「飯、えよ。めちまうぞ。俺、呂入ってくるわ」
健司はそれだけ言うと、バスタオルを掴んで脱所へと消えていった。
やがて、ジャーというシャワーの気いい音が聞こえ始めた。
リビングに残された私は、コートを脱いで子の背もたれに掛けた。
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静かな部。
からは、規則正しい義母の寝息が微かに聞こえてくる。
テーブルののお弁当のパックをけ、割り箸を割る。
ばしい焼き鮭の匂いがちった。
私は箸を伸ばし、、に運んだ。
ゆっくりと噛み締め、み込む。
私がちがって薬箱をけなくても。
私が夜に駆け込んでオムツを替えなくても。
世界は、何つ崩壊しなかった。
族はそれぞれに自分の痛みを引き受け、
専はプロとしての仕事を果たし、
そして私は、私自の温かい夕飯を、自分のペースでわっている。
それは、何かを派に打ち負かした勝利ではなかった。
ただ、すぎたの歪みが正され、
あるべきものが、あるべき所へと収まっただけの、静かで当たりの夜だった。
私はお茶をみ、ふう、と静かに息を吐いた。
はパートの休みのだ。
朝から図館にって、以から読みたかった本を借りてこよう。
そんなさなの予定をい浮かべながら、私はもう、温かいご飯をに運んだ。