"ただの送金係にされた母親" 第16話
【16】「もう度と、私のために嘘をつかないで」
話しいが終わった、私たちは藤の苑の正面玄関で解散した。
正弘は佐藤ケアマネジャーに付き添われ、特護棟への移続きのために奥の廊へと消えていった。
り際、元夫は度だけ子を止め、私の方を振り返った。
何かを言いかけたようにを噤んだが、結局何も言わず、たださくをげた。
の号と罵声に満ちた別れとは違う、老いた男の静かな退だった。
夕暮れの駐で、たいが吹き抜けていた。
「母さん、駅まで送るよ」
翔太が言ったが、私は首を横に振った。
「いいえ。私はでバスで帰るわ」
私はのにち、息子の目をまっすぐに見据えた。
タキシードを着ていたのような華やかさも、嘘で塗り固めていた頼もしさもない。
借を背負い、妻に財布を握られ、父親の介護の現実を突きつけられた、等のけない息子がそこにいた。
「翔太」
「うん……」
「もう度と、私のために嘘をつかないで」
私ははっきりと告げた。
「私が傷つかないようにとか、私がするようにとか、そんな言い訳で真実を隠すのはやめなさい。親なんてね、子供の惨めな姿を見たって、それだけでにはしないのよ」
翔太の喉が、ぐっと詰まった。
「これからは、彩さんと向きいなさい。私のご嫌を取る暇があるなら、彩さんを度とにさせないためにを使いなさい」
広告
「……分かった。ごめん、母さん。今まで、本当にごめん」
翔太がく、くをげた。
その隣で、彩さんが私に向かって静かに礼した。
「お義母さん、ありがとうございました」
「彩さん。苦労をかけるわね」
「いえ。これからが本当の結婚活だとっています。あのがまた嘘をつきそうになったら、容赦なく切り捨てますので」
彩さんの横顔には、もう迷いはなかった。
が並んで歩きし、駅へと向かう姿を、私はバスのベンチから見送った。
をつなぐわけでもなく、肩を寄せうわけでもない。
しの距を保ちながら、それでも同じ歩幅で歩いていくの背は、あの披宴のスポットライトのにいたよりも、ずっと本物の夫婦に見えた。
それから、ヶが過ぎた。
季節はからへと移り変わり、京のにも桜の便りが届き始めていた。
私の活は、驚くほど静かで穏やかだった。
毎、パートの料が振り込まれても、もうそこから万円を引きす必はない。
浮いたおで、私は買い替えられずにいたさな蔵庫を調し、週末にはで所のスーパー銭湯に通うようになった。
息子を配し、息子に依し、「母親」という役割にしがみついていたの呪縛から、私もまた、ようやく解放されたのだ。
正弘は特護棟へ移り、減免制度の続きも無事に完したと、施設から報告が届いた。
豪華な個から部へと移ったそうだが、文句を言うこともなく、リハビリを続けているらしい。
そして翔太は、平の夜と週末の空いたを使って、倉庫のピッキングのアルバイトを始めたという。
彩さんからのLINEでった。
『先分のモビットの返済、無事に完しました。バイト代から万円を繰りげ返済に回せたそうです。今のところ、嘘の気配はありません』
添えられたメッセージに、私はさく微笑み、スマートフォンの画面を伏せた。
あの舟は、沈没を免れた。
浸したを自分たちので掻きし、ボロボロになりながらも、現実の荒波のをゆっくりとみ始めているのだ。