"ただの送金係にされた母親" 第15話
【15】「俺がせるのは2万円が限界です」
「皆様の現のご状況は、把握いたしました」
佐藤ケアマネジャーが、淡々とした実務なトーンでをいた。
「特別介護棟への移に伴う費用は額万円。ですが、ご本の課税状況と収入から試算しますと、政の『特定入所者介護サービス費』および負担限度額認定の再申請が能です。これにより、費・居費の減免措置が受けられる見込みがあります」
佐藤さんは卓を叩き、枚の試算表をテーブルの央に置いた。
「申請が通れば、自己負担の総額は額およそ万千円まで圧縮できます」
万が、万千円。
現実の社会制度が提示した数字に、正弘がすがるように顔をげた。
「万千円……なら、俺の遺族と基礎をわせれば、万千円は自分でせる。あと万円あれば……」
正弘の線が、翔太へと向けられた。
かつての傲な父親の顔ではない。老いと病に追いつめられたの老が、息子に縋り付く目だった。
翔太は涙をの甲で乱暴に拭い、机のの通帳を見つめた。
瞬、また何かの言い訳を探そうとする気配が漂った。
だが、彩さんのたい線と、私の静かな沈黙が、その退を塞いでいた。
翔太はく、く息を吐きした。
「……せるのは、万円が限界です」
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息子は、初めて自分の限界をにした。
「見栄を張って万なんて言えない。俺の取り万から、彩との活費、アパートの更料、そして消費者融への返済万円を引いたら、親父の施設代に回せるのは万円が限界なんだ」
「翔太……」
「これ以は円もせない。もし施設代が値がりしたり、別の医療費がかかったりしたら、役所の活保護課に相談して、介護扶助の続きを取ってくれ。俺が借して補填することは、もう度としない」
正弘は息を呑み、それからがっくりと首を垂れた。
「……分かった。俺も、自分のの丈にわない儘は言わん。減免の申請をして、りない分はおの万をありがたく受け取る。それでダメなら、役所にをげる」
元夫のから「ありがたく受け取る」という言葉がたのを、私はまれて初めて聞いた。
次に、翔太が私の方を向いた。
ポケットから取りしたのは、枚の便箋だった。
『借用:百万円也』
翔太の震える字で、過、私が振り込み続けた仕送りの全額を返済するという誓約がかれていた。
「母さん。このおは、俺がをかけて必ず返すから……」
私はそのを受け取ると、言も読まずに、つに引き裂いた。
「母さん!?」
「このおは、返さなくていいわ」
私は破いた便箋をテーブルの端に置いた。
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「この百万はね、私が、あなたを都のいい緩衝材にしてきたツケよ。『父親の話をするな』と命じて、あなたを嘘つきに育てげた私の責任に対する切れだとってちょうだい」
翔太が息を詰まらせる。
「その代わり、今この瞬から、仕送りは円たりともさない。あなたがどれだけ活に困っても、親父さんの医療費がりなくなっても、私はもうあなたを助けない。あなたを『の男』として扱うわ」
翔太の目から、再び粒の涙がこぼれ落ちた。
だがそれは、先ほどまでの怯えの涙ではなく、背負い続けた荷物を無理やりろされたの、痛みを伴う脱力だった。
そして最に、彩さんがいた。
彼女はバッグから、あの緑の婚届を取りした。
翔太の顔が恐怖で張る。
だが彩さんは、その婚届を破りはしなかった。
代わりに、綺麗に折りたたんで自分の帳の奥に挟み直した。
「式は挙げました。ご祝儀もいただいたし、親族へのもあります。だから、今すぐに婚姻届を破棄することはしません」
彩さんは、しく印刷してきた枚の用を翔太のに滑らせた。
『計管理に関する』
「期は半。あなたの料振込座のキャッシュカードと通帳は、私が管理します。毎のお遣いは万円。消費者融への返済記録は毎私に見せること。
お義父さんへの送万円も、私がち会って振り込みます」
彩さんの線は、切の妥協を許さなかった。
「そして何より、私に対して何つ隠し事をしないこと。困ったこと、減、予期せぬ費、すべてを私に共すること。それが度でも破られたら、私はそののうちにこの帳から婚届をして役所へきます」
翔太は震えるでボールペンを握りしめた。
「……分かった。全部、彩の言う通りにする」
カリカリと、ペン先がる音が相談に響いた。
の抱擁も、涙の仲直りもない。
そこにあったのは、壊れかけた関係を現実のルールと契約で繋ぎ止める、徹で確かな再発の儀式だった。