"無償シッター扱いの母" 第20話
「お母さん、今、がっても丈夫?」
初のが、庭のハナミズキの若葉を優しく揺らしていた。
半ばの曜。
朝のダイニングルームには、淹れたてのコーヒーのりが満ちていた。
玄関ホールには、つのきなスーツケースが並んでいる。
半遅れでようやく実現した、へのの旅。
洗港から発する夕方のフェリーに乗るため、私たちはこれから羽田経由で茨へ向かう予定だった。
「隆さん、チケット持った?」
「ああ、内ポケットに入れた。千恵、おこそカーディガン持ったか? の夜はまだえるぞ」
隆が、本で仕て直したグレーの物コートを羽織りながら言った。
あの喧嘩以来、夫は私の予定を勝に決めつけることを切やめた。
ぎこちなさはまだ残っているが、かけるには必ず「何にる?」「どっちのルートがいい?」と、私の顔を見て尋ねるようになった。
ピンポーン。
澄んだインターホンの音が、静かな玄関に鳴り響いた。
私と隆は顔を見わせた。
計は分。こんな朝くに誰だろうか。
玄関へ向かい、モニターを覗き込む。
画面には、のワンピースを着た理と、背がし伸びた悠斗の姿が映っていた。
には、菓子の袋が提げられている。
ガチャリ、と鍵をけ、私はドアを引いた。
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「おはよう、理。どうしたの、こんな朝くに」
ドアの向こうで、理がを止めた。
かつての娘なら。
「おはよー! くまで来たから寄ったよ!」と、靴を脱ぎ散らかしてがり込み、勝に蔵庫をけていただろう。
けれど、今の理は違った。
娘は、玄関の敷居の――と内を分かつ境界線の側に、きちんと両を揃えてっていた。
そして、し照れくさそうに、けれど真っ直ぐに私の目を見て、静かにこう言ったのだ。
「お母さん。今、がっても丈夫?」
胸の奥の、番温かい所が、じんわりとくなった。
今、がっても丈夫?
それは、私というを、の独したとして尊していなければ、決しててこない言葉だった。
私のと、私のテリトリーに、敬を払ってノックをする音だった。
私はエプロンをし、スーツケースを指差して、悪戯っぽく笑った。
「ごめんなさいね、理。今はいけないの」
「え?」
「見ての通り、これからお父さんとへかけるのよ。港へ向かうに、もう乗らなきゃいけないの」
理は瞬目を丸くし、玄関に並んだつのきなスーツケースを見た。
そして、ふっと肩の力を抜き、母親そっくりの笑顔を浮かべた。
「あ……そっか! 今からフェリーだっけ! ごめん、忘れちゃってた!」
理はに持っていた袋を、両で私に差しした。
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「これ、駅の美しいおのシュークリーム。フェリーのでべて。旅、楽しんできてね」
「ありがとう。いただくわね」
元から、悠斗がピョンピョンとねながらを振った。
「おばあちゃん、お産カニにしてねー!」
「ふふ、きなカニ送るわね。いい子にしてるのよ」
「うん!」
理が悠斗のを引いて、歩ろへがった。
「じゃあね、お母さん。帰ってきたら、また連絡して。……あ、事に空いてる、聞いてからくから!」
「ええ。楽しみに待ってるわ」
私は優しく微笑み、ゆっくりとドアノブを引いた。
カチャリ、と静かにラッチが噛みい、玄関のドアが閉まった。
娘を追いした罪悪は、微もなかった。
拒絶された娘の絶望も、そこにはなかった。
ただ、お互いのをしっかりと自分ので歩んでいるのが、気持ちよく交わした「またね」の余韻だけが、静かに漂っていた。
「よし、くか」
隆がキャリーバッグの持ちを伸ばした。
「ええ、きましょう」
私は自分のスーツケースを引いて、もう度だけ、ダイニングの片隅に置かれた製のキッズチェアに目をやった。
埃は払われ、朝を浴びて、静かにそこにあった。
いつかまた、約束したに、あのさな主が座るのを待つかのように。
私はを向き、玄関のドアを力く押しけた。
抜けるような青空から、初の眩しいが、私たちのこれからの旅をまっすぐに照らししていた。