"無償シッター扱いの母" 第16話
赤ペンで塗りつぶされた、2分の予定表
音だけが、リビングの窓ガラスを激しく叩いていた。
からは、温かいお呂に入って着替えを済ませた悠斗の、さな寝息が聞こえている。
コンビニで買ってきた肉まんをつ平らげると、緊張が解けたのか、孫はのように眠りに落ちていた。
ダイニングテーブルを挟んで、私と理、そして腕を組んだ隆が座っていた。
理の濡れた髪からは、まだポタポタと滴が落ちていた。
テーブルの央には、娘がバッグの底から震えるで取りした、あのA4のが広げられている。
ヶに作られた、私の名がびっしりとき込まれた『今の活・育児スケジュール案』。
「……お母さん」
理が、すがるような目で私を見つめた。
瞳には涙が溜まり、唇は青く震えている。
「本当に、今だけ泊まらせてくれればいいから。、また産にって、審査の甘いアパート探すから……」
「いいえ」
私は静かに首を振った。
そして、エプロンのポケットから、本のペンを取りした。
キャップをす。
パチン、と乾いたプラスチックの音が響いた。
ペン先から覗くのは、鮮烈な赤いインクだった。
私はの端をで押さえ、迷うことなく、表の最段に赤ペンをらせた。
キュッ、キュッ、とを削るような音がリビングに響く。
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【〜】16:30 悠斗の保育園お迎え(実・母担当)
【〜】17:00〜19:30 実にて夕飯・入浴・宿題補助(実・母担当)
そののに、太く、無慈な線が引かれた。
赤インクが、いに鮮血のように滲んでいく。
「……え?」
理の喉から、の抜けた声が漏れた。
私はを止めない。
【・】理残業確定のため、悠斗は実宿泊(実・母担当)
【第2・第4曜】規プロジェクト研修のため、終預かり(実・母担当)
曜と曜の宿泊の欄を、きな赤のバツ印で塗りつぶす。
曜の預かりも、斜線で完全に消しった。
理の顔から、瞬にして表が消えった。
そして次の瞬、信じられないものを見るような絶望とりが、その瞳に燃えがった。
「……何してるの?」
理の声が裏返った。
「何してるのよ、お母さん!? 全部消したら……私、どうやって働けばいいの!?」
ガタッと子を引き、理がテーブルに両をついてを乗りした。
「しい会社、もう始まってるんだよ!? 残業できないならクビになる! 曜の研修にられないなら昇どころか減だよ!? お母さん、私を殺す気なの!?」
涙とでぐしゃぐしゃになった娘の顔。
「シングルマザーができていくのがどれだけ変か、お母さんには分からないの!? 実の親にも頼れないなら、私、京でどうやってきていけばいいのよ!!」
その痛な叫びを聞いて、向かいに座っていた隆が、待ってましたとばかりに角を吊りげた。
「ほーら見ろ。言った通りだろうが」
隆が酷にを鳴らし、娘を指差した。
「親を当てにしての丈にわない仕事を選んだおが悪いんだ。甘ったれるな。今すぐ荷物をまとめて――」
「隆さん」
私の鋭くい声が、夫の言葉を遮った。
ダンッ、と赤いペンのお尻がテーブルの目を叩いた。
「……千恵?」
「静かにして」
私は夫の方を見もせずに言った。
「今夜は、あなたがる幕じゃないわ。を挟まないで」
隆が息を呑み、言葉を失って固まった。
私は赤ペンを握り直すと、真っ赤に腫らした目で私を睨みつける娘の線を、正面から受け止めた。