"無償シッター扱いの母" 第15話
期限まであと7、玄関に積まれたダンボール
の最終週の曜。
鍵の返却期限まで、あととなった。
朝からたいがっていた。
リビングの戸を叩く規則な音の、私はダイニングテーブルに向かい、本の赤い性ボールペンを置いて待っていた。
午。
ピーンポーン、とインターホンが鳴った。
度きりの、ひどく慮のない、押し潰されたような音。
モニターを見るまでもない。
玄関のドアをけると、そこにはずぶ濡れのビニール傘を差した理と、黄い靴を履いた悠斗がっていた。
そして、の元には。
ガムテープで乱暴に留められた、つのきな段ボール箱が積みげられていた。
「……理」
娘の顔は、幽霊のように青かった。
唇のはなく、髪はに濡れて額に張り付いている。
抱きかかえられた悠斗は、いつもと違う母親の異様な気配に怯えたのか、私の顔を見るなり「うわーん!」と声をげて泣きした。
「……健太がね」
理が、掠れた声で言った。
の、震える肩を必で抑え込もうとしている。
「今朝、勝に業者呼んで、マンションの鍵を付け替えちゃったの。私の荷物、これだけ玄関のにされて……『これ以ここに居座るなら警察呼ぶ』って」
最悪の事態だった。
週の猶予があるはずだったのに、元夫側が段にたのだ。
広告
「審査落ちたの。シングルマザー向けのアパート、保証会社の審査が通らなかった」
理のきな瞳から、に混ざって粒の涙が溢れした。
「くところがないの、お母さん。もう、本当にどこにもないの……。今泊まるところすらないのよ」
理はのついた靴のまま、玄関のがり框に膝をついた。
プライドも、りも、すべて削ぎ落とされた、きるかぬかの極限の姿だった。
「お願い……悠斗だけでも置いて。私、で寝てもいいから。ここに入れてくれないなら、私、もう健太に悠斗の親権渡すしかない……! あんな男に、悠斗を渡すしかないのよ……!」
娘の慟哭が、たい玄関ホールに霊した。
奥の廊から、音がづいてきた。
隆が、厳しい顔をして腕を組んだままっている。
「だから言っただろう、警察を呼んででも追い返せ」と言わんばかりの酷なを瞳に宿して。
悠斗は私のスカートを掴み、しゃくりあげながら泣いている。
理はに額を擦り付けるようにして震えている。
夫はややかにそれを見ろしている。
かつて私が「温かいが」だと信じ込んでいた所は、今や完全に崩壊していた。
ここでに流されて「いいわよ、ずっとここにいなさい」と抱きしめれば、私たちは共倒れになる。
ここで隆に従って酷にドアを閉めれば、娘と孫のは取り返しのつかない破滅を迎える。
広告
どちらでもない。
私はもう、に流されるれな母親でも、夫の顔を窺う従順な妻でもない。
私はすっと息を吸い込み、悠斗の濡れたをそっと撫でた。
そして、にへたり込む理の肩にを置いた。
「……理、ちなさい」
理が涙で濡れた顔をげる。
「悠斗、がっておいで。靴を脱ぎなさい。お呂を沸かしてあるわ」
「千恵!」
背から隆の鋭い制止の声がんだ。
私は振り返り、夫の言葉を片を挙げて遮った。
そののひらには、揺るぎない絶対のが宿っていた。夫が息を呑み、を噤む。
「理。荷物を玄関に入れなさい。そして、ヶに作った、あのスケジュール表をしなさい」
私の静かな声に、理は呆然と瞬きを繰り返した。
「今から、でテーブルに座るわ。誰が、誰のために、何をするのか。から全部、決め直すわよ」
の音を背景に、私は理の背を押し、リビングのドアをけた。
テーブルのには、あの赤い性ペンが、静かにその番を待っていた。