"無償シッター扱いの母" 第14話
30、私が娘に差しし続けた「の切」
夜。
のは、墓のように静まり返っていた。
ベッドので目を覚ました私は、眠気をじることなく起きがった。
音を忍ばせて廊へると、リビングのかりは消え、夫の寝息すら聞こえない。
私は吸い寄せられるように、廊の奥にある暗い納戸の戸をけた。
パチンとさな球を灯す。
埃の匂いのに、古い段ボールとゴルフバッグに挟まれた、あの製のキッズチェアがあった。
、悠斗がまれて初めてがにやってきた、私が嬉々として買ってきた子。
座面の端には、理が子どもの頃に使っていたミッフィーのシールが、褪せて貼り付いている。
私はその子をそっと引きし、埃をのひらで撫でた。
「……どうして、こうなっちゃったのかしらね」
呟いた声が、狭い納戸に虚しく反響した。
理の勝なシフト表。
「お母さんはいつだってんでたじゃない」という娘の叫び。
「どうせおは断れない」という夫の侮蔑。
それらの言葉が、のでぐるぐると渦を巻く。
本当に、理だけが悪かったのだろうか。
娘が突如として、恩らずな怪物に変貌したのだろうか。
――違う。
胸の奥の、最も柔らかく、最も直したくなかった部分が、ズキリと痛んだ。
納戸の奥の棚から、古いアルバムを冊引き抜いた。
広告
ページをめくると、学の理、学の理、セーラーを着て笑う理の写真が並んでいる。
記憶が、濁流のように蘇ってくる。
理が邪を引いた、私は仕事を退して晩背をさすった。
理が部活の征にく、朝に起きてキャラ弁を作った。
理が結婚してをたも、
「お惣菜たくさん作ったから持っていく?」
「曜、シチュー煮込むから健太さんとおいでよ」
「悠斗のおむつ、かったから買っておいたわよ」
私から、声をかけていたのだ。
娘に頼まれるから、先回りしてを差し伸べ続けていた。
なぜか。
優しい母親だったから?
い親だったから?
違う。
私は、怖かったのだ。
娘がになり、結婚し、自分の庭を築いていくで、
「もうお母さんはいらない」と言われるのが、ぬほど怖かったのだ。
『お母さん、ありがとう』
『やっぱりお母さんのご飯が番だね』
『お母さんがいてくれて本当によかった』
その言葉を聞くことでしか、私は自分の価値を確認できなかった。
族から必とされることでしか、主婦としての、女としての、きているを見せなかったのだ。
「……私が、渡していたのね」
声が震えた。
理が私のを当然のように奪うようになったのは、あの子がまれつき欲だったからではない。
私が、娘の目のに差しし続けていたのだ。
広告
『いつでも使っていいのよ』
『限度額なんてないのよ』
『お母さんはあなたのためなら、いつだってんで破産してあげるわ』
額の欄が真っな、署名入りの切を。
私が笑顔で、何千枚も娘ののひらに押し付け続けてきたのだ。
理はただ、母親が差しし続けたその切を、最の危において、言われた通りに使おうとしただけに過ぎない。
「母親失格ね……」
たい子の座面を抱きしめながら、涙がポロポロとこぼれ落ちた。
夫を責める資格も、娘をなじる資格も、本当は私にはなかったのだ。
私が「いい母親」という仮面を被って、自分の寂しさを埋めるために娘を依させてきたツケが、今、この請求となって回ってきたのだ。
けれど。
私は涙を拭い、ゆっくりと顔をげた。
過を悔やんで自分を責めても、計の針は戻らない。
末まで、あと。
私がの切を差ししてきたのなら。
その切を回収し、破り捨て、しいルールをくのもまた、私自の責任だ。
「……もう、逃げないわ」
私はキッズチェアを抱え、納戸からた。
リビングのダイニングテーブルの定位置に、その子を静かに置き直した。