みかん小説
本棚

"無償シッター扱いの母" 第13話

「あんたが守りたいのは私じゃない、自分の静寂だ」

リビングへ入ってきた隆は、に持っていたスーパーの袋をダイニングテーブルに置いたところだった。には缶ビールと乾き物が入っている。

「千恵、湿布あったか。夕飯、適当でいいぞ。刺でも買って――」

バサッッ!

乾いたの擦れう音が、夫の言葉を遮った。

私がテーブルの央に叩きつけた『契約解除通』を見て、隆の眉がピクリとねがった。

数秒の沈黙の、夫はフンとくを鳴らした。

「……なんだ。見つけたのか」

悪びれる様子など微もない。

着を脱ぎながら、まるで「掃除に見つかったレシート」でも見るような平然とした態度だった。

「どういうことなの、隆さん」

私の声は、く、押し殺したりで震えていた。

「これ、になってるわ。理がここに来るよ。違約まで払って、なんで勝に解約したのよ!?」

「見ればわかるだろう」

隆は缶ビールのプルタブをプシュッとけ、喉に流し込んだ。

「理が『実に転がり込みたい』と言ってきた点で、あの旅は消えたんだよ。発までヶを切れば、キャンセル料はねがる。損害を最限に抑えるために、俺が決断してやったんだ」

「決断してやった……?」

「そうだ。どうせおは、理に泣きつかれれば『だから』と引き受けるに決まってる。

広告

旅の当になって『やっぱりけない』と言いされるくらいなら、最初からに戻すのが筋だろうが」

「誰の筋よ!!」

私の声が、リビングの空気を切り裂いた。

隆がビクッと肩を揺らし、缶ビールを持ったを止めた。

「何が『おのため』よ! 何が『守ってやった』よ!」

私はテーブルに両をつき、夫の顔を睨みつけた。

「あなたは最初から、私と話しう気なんてなかったのよ! 理が来たら旅にけなくなるのが嫌だったんじゃない! キャンセル料を払ってでも、『ほら見ろ、あいつのせいで旅がパーになった』って、娘を責める実が欲しかっただけでしょう!?」

「千恵、言葉を慎め!」

隆が顔を真っ赤にしてちがった。テーブルを叩く音がドンと響く。

「俺がどれだけおの体を配したとってるんだ! おは退職して気が緩んでるんだよ! 週やってみて分かっただろうが! 腰を痛めて、友のランチをドタキャンして、夜にえた飯を温め直して……あれがおの望んだ老なのか!?」

「望んでないわよ!!」

私は叫び返した。目からい涙が溢れそうになるのを、力づくで睨みつけて押し戻す。

「望んでないわ! 腰は痛いし、理の勝さには腹がつし、悠斗を押し付けられるのはうんざりよ! だけどね、隆さん!」

私はキャンセル通を指差した。

「それを『嫌だ』と言って断る権利は、私にあるのよ! あの子の母親である私が、自分で選んで、自分で傷ついて、自分で境界線を引くべきことだったのよ!」

広告

隆の息が止まった。

「あなたは私を守ったんじゃない。私から選ぶ会を奪っただけよ。『千恵はどうせ断れない愚かな女だ』って見して、私の越しに旅を捨てて、私のスマホから勝に理に絶縁メールを送って……!」

私は夫の目をまっすぐに見据えた。

「あんたが守りたかったのは、私じゃない。自分の静かな老よ。このの静寂が乱されるのが嫌だったから、娘を悪者にして、私を操り形にして、自分の都のいいように壁を作っただけじゃないの!!」

「な……っ!」

隆の顔から血の気がサーッと引いていった。

唇をワナワナと震わせ、何か反論しようと喉を鳴らすが、言葉がてこない。

核を突かれたのだ。

夫の「族いの正論」の裏側に張り付いていた、利己な打算をのに晒されたのだ。

「……もう、たくさんよ」

私は通をくしゃりと握り潰し、ゴミ箱へ放り込んだ。

「これ以、あなたに私のを代させない。理のことも、旅のことも、これからの私の暮らしも、全部私が自分で決めるわ」

「千恵……待て、話はまだ――」

すがりつこうとする夫のを払い除け、私は寝へ入った。

内側から鍵をガチャリと回す。

ドアの向こうで隆がち尽くす気配がした。

私は暗い部のベッドに倒れ込み、、静かに荒い息をえた。

娘の欲な依と、夫の傲な支配。

つの巨なエゴの板挟みになりながら、私はまれて初めて、自分自のためにちがろうとしていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: