"無償シッター扱いの母" 第10話
勝に断られた来週のシフト
「……ざまあないな」
静まり返った玄関に、ややかな声が落ちてきた。
振り返ると、隆が腕を組み、え切った目で私を見ろしていた。
「言っただろう、千恵。『おは悔する』とな。あいつにとっての母親はな、困ったに何でも差しす都のいい便利なんだよ。それをちょっと断っただけで、あの言われようだ」
「……もう何も言わないで」
私は絞りすような声で言った。
の震えが止まらない。胃のあたりがキリキリと痛み、っていることすら辛かった。
「本、くんでしょう。支度するわ」
「かん」
隆は吐き捨てるように言った。
「こんな胸糞の悪い空気配で、わざわざ美い蕎麦をいにく気になれるか。コートの受け取りは来週に延期だ」
夫は靴を脱ぎ散らかし、ずかずかとリビングへ戻っていった。
ソファーにく腰掛け、テーブルのに置かれていた私のスマートフォンを、勝にに取った。
「ちょっと、隆さん! 何してるのよ!」
私が慌ててリビングへ駆け寄ると、隆は画面を指先で慣れた様子でタップしていた。
私のスマートフォンのロックは、昔から族の誕で共通にしてあった。
「何って、始末だよ」
「始末……?」
隆は画面をこちらに向けた。
そこには、理とのLINEのトーク画面がかれていた。
そして、私の名のアカウントから、ほんの数秒に送信されたばかりのメッセージが表示されていた。
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『理へ。お母さんは今週の無理が祟って度の腰痛になりました。歩くこともままなりません。来週からの保育園の送迎、夕の準備、宿泊の配はすべて切対応できません。これ以連絡してこないでください。自分の活は自分で何とかしなさい』
文字を認識した瞬、の芯がカッとくなった。
「……な……」
「これでいい」
隆は満げにスマホをテーブルのに放り投げた。カツン、とガラスの擦れう乾いた音が響く。
「あいつには灸を据えてやる必がある。どうせおは、になればまた『理が』だの『悠斗が憫』だのと言いして、のこのこ迎えにくに決まってるからな。俺が代わりに引導を渡してやったんだ。謝しろ」
謝しろ。
夫は底、自分が正しいことをしたという顔をしていた。
妻を守り、愚かな娘の暴をい止めた、賢なとしての誇らしげな笑みを浮かべていた。
画面がピカピカと点滅し始めた。
理からの返信だった。
『は? わかんない。もういい。お母さんもお父さんもっ嫌い。悠斗とで野垂れねばいいんでしょ』
い文面に、娘の絶望と憎悪がこれでもかと詰め込まれていた。
ヒュッ、と喉から息が漏れた。
私のにあったのダムが、音をてて決壊した。
娘に対する罪悪でもない。
理の勝さに対するりでもない。
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目のにいる、この「私のために正しい判断をしてやった」と勝ち誇っている夫に対する、凄まじいりだった。
「……隆さん」
「なんだ。まだ文句があるのか?」
「誰が……」
私の声がく震えた。
隆が怪訝そうに眉をひそめる。
「誰があなたに、私の代わりを頼んだのよ!!」
リビングの窓ガラスを震わせるほどの号だった。
の結婚活ので、私が夫に向かってこれほどの声を張りげたことなど、度もなかった。
隆が目を見張り、息を呑んでずさりした。
「千恵……? お、何をって……俺はおを守るために……」
「守る!? これが守ることなの!?」
私はテーブルののスマートフォンをひっ掴み、夫の胸元に突きつけた。
「理は私の予定を勝に埋めて、あなたは私の言葉を勝に奪った! ともやってることは全く同じじゃないの! どっちも私をのとして見てない! 私の越しに、勝に私のをかしてるだけじゃないの!!」
「な……何を馬鹿なことを言ってるんだ! 俺はおが体を壊すのを止めようと――」
「私が断るは、私のから言うわよ!!」
私の叫び声に、隆は完全に言葉を失い、をパクパクとさせた。
「伝うかどうかも私が決める! 断るかどうかも私が決める! 私が甘くて違えるなら、私が違えて悔するわ! あなたに正しい決定を代してもらう筋いなんて、これっぽっちもないのよ!!」
リビングに、私の荒い呼吸の音だけが響いた。
夫は顔を青ざめさせ、拳を震わせて私を凝していた。
連れ添った妻が、初めて見せた。
従順で、いつも夫のろを歩き、族の平満を笑顔でみ込んできた「千恵」という女が、々に砕け散った瞬だった。
私は夫から線をし、度とをかずに寝へ向かった。
内側から鍵をガチャリと閉める。
暗い部ので、私はコルセットをきつく締め直し、たいベッドの端に腰掛けた。
末の鍵の返却期限まで、あと週。
族という名の欺瞞が、いよいよ音をてて崩壊し始めていた。
第3回:空支票与替罪保护伞