"無償シッター扱いの母" 第9話
「お母さんだけは、方だとってたのに」
「私の婚協議より事な用事って、体何なわけ!?」
娘の叫び声が、私の鼓膜を容赦なく打ち据えた。
何があるのか。
喉元までかかった言葉を、私は必でみ込んだ。
『お父さんと緒に、本へコートを受け取りにくのよ』
『美しいお蕎麦をべて、で旅の計画をてるのよ』
言えるはずがなかった。
そんなことをにすれば、理は違いなく嘲笑するだろう。
「そんならない用事のために、娘と孫のを秤にかけたの?」となじるだろう。
その瞬、私は背筋が凍るような惨めさに襲われた。
なぜだ。
なぜ私は、自分が何も働いてに入れた自由なを楽しむために、娘に対して「命に関わるほどの正当な理由」を提示しなければならないのか。
なぜ私のは、娘のトラブルよりも常に価値がく、差しされて当然のものとして扱われなければならないのか。
「……理由を言う必はありません」
私は爪がのひらにい込むほど拳を握りしめ、理の線をまっすぐに見返した。
「とにかく、今は無理です。約束できないことは、引き受けられません」
「……はあ!?」
理は信じられないものを見る目で、を抱えてを踏みならした。
「約束できないって何よ! スケジュール表、渡したじゃん! 曜は研修が入るかもしれないから預かってって、ヶからいてあったでしょ!?」
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「あの表に、私は度も判を押していません」
私のく静かな声に、理の言葉がピタリと止まった。
娘の肩が刻みに震え始める。
その目から、ボロボロと粒の涙が溢れしてきた。
それはりの涙ではなく、裏切られたとい込んだ特の、く湿った被害妄の涙だった。
「……ひどい」
理は掠れた声で呟いた。
「ひどいよ、お母さん……。私、本当に困ってるのに。健太に浮気されて、おもなくて、仕事も必で探して……毎にそうないできてるのに」
ポロポロと涙を零しながら、理は私を指差した。
「世の母親はみんな、娘が婚するって言ったら全力で支えてくれるよ! 私の友達の親だって、みんな孫の面倒見てくれてる! それなのに、何なの? たかが週ちょっと伝ったくらいで、そんなたい顔して……」
「理、私は……」
「わかったよ。もういい!」
理は私の言葉を遮り、両で乱暴に涙を拭った。
「私が甘かったんだね。お父さんがたいのは昔からだけど……お母さんだけは、絶対に私の方だとってた。世界が敵になっても、お母さんだけは私と悠斗を抱きしめてくれるとってたのに」
その言が、私の胸を抉るように突き刺さった。
お母さんだけは、方だとってたのに。
番刺さる刃物を、娘は正確にっていた。
私が、良き母でありたいと願い、娘に嫌われることを何より恐れてきてきたことを、本能で見抜いているのだ。
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ぐらりと界が揺れた。
「ごめんなさい、やっぱり悠斗を置いていきなさい」と、今すぐ言を撤回して娘に謝りたくなった。その方がどれだけ楽か。娘に失望され、憎まれる恐怖から逃れられるのなら、腰の骨が折れたって構わないとすらいそうになった。
けれど。
理の背で、黙って靴べらを持っていた隆が、ふっとで笑ったのが見えた。
『ほら見ろ、おは結局、娘の顔を窺うだけの操り形だ』
夫の無言の嘲笑が、私の踏みとどまる最の杭になった。
私は唇を血がるほど噛み締め、度とをかなかった。
「……もう頼まない。悠斗連れて弁護士事務所くから! それで交渉が破綻したら、全部お母さんのせいだからね!」
理は階へ駆けがり、まだパジャマ姿の悠斗のを乱暴に引っ張ってりてきた。
「ママー、どこいくの? テレビみたいー」とぐずる悠斗を無理やり靴に押し込み、玄関のドアを力任せにける。
バタンッッ!!
爆発のような音がして、鉄の扉が閉まった。
激しい余韻を残して、静寂が玄関ホールに落ちてきた。
私はそのから歩もけず、壁に背をもたれかけさせて、荒い息を吐き続けた。
臓が鐘のように打ち鳴らされ、胃の奥から酸っぱいものが込みげてくる。
娘を傷つけたという猛烈な罪悪と、まれて初めて自分の領域を守り抜いたという奇妙な痺れが、全を激しく引き裂いていた。