"無償シッター扱いの母" 第5話
「3週に鍵を返す」迫る期限と、最初の賭け
「……で、具体にはどうするつもりなんだ」
隆が腕を組み、え切った茶のカップを見つめながらをいた。
理はティッシュでをかみ、しだけ落ち着きを取り戻していたが、私と目をわせようとはしなかった。
「今のマンションは、どうするの」
私の問いに、理はさく肩を竦めた。
「……今末で解約することになってる。健太名義の部だから。あと週で、完全に引き払わなきゃいけないの」
「週!?」
わず声が裏返った。
週。あまりにも猶予がない。
「敷とかの続きは向こうがやるけど、私と悠斗の荷物は全部さなきゃいけない。でも、シングルマザーの賃貸契約って審査が厳しくて……しい与細がるまで、まともな物件は契約すらさせてもらえないの」
理はチラリと私を見た。その目には、再び「当然助けてくれるだろう」という計算が滲んでいた。
「だから……次のアパートが見つかるまでの、ここの階の部を使わせてほしいの。悠斗となら、畳で分だから」
「ウィークリーマンションでも借りろ」
隆が即座に切り捨てた。
「敷なしで入れるところなんていくらでもある。自分の料の範囲でやりくりしろ」
「歳の子どもを連れてウィークリーマンションなんてめるわけないでしょ!?」
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理が切り声をげる。
「治だって悪いし、自炊もろくにできない! 悠斗にそんないさせろって言うの!? 実の部が余ってるのに、なんでわざわざいお払ってそんなところに泊まらなきゃいけないのよ!」
の罵りいが、再び激しさを増していく。
週。
カレンダーがに浮かぶ。
末までに、娘と孫はむ所を失う。
荷物をまとめ、きをなくした娘が、幼い悠斗のを引いて途方に暮れる姿が、鮮に脳裏をよぎった。
正論を言っているのは隆だ。それは痛いほどわかっていた。
理のやり方は勝で、親の善をい物にしている。
けれど、理を突き放せば、その皺寄せはすべて歳の悠斗にいくのだ。
あの子に、何の罪があるというのか。
「……私が、やるわ」
私の絞りすような声に、の言い争いがピタリと止まった。
隆が、射抜くような目で私を見る。
「千恵、本気か」
「本気よ。退職して、私にはがあるわ。体力だってまだ残ってる。理がで番変なに、母親がを貸さなくてどうするのよ」
私は自分に言い聞かせるように、言葉をねた。
「理だって、しい仕事に慣れて落ち着けば、自分でアパートを探してていくわ。ずっと面倒を見るわけじゃない。ほんの数ヶ、活が軌に乗るまでのことよ」
理の顔に、目に見えて堵のが広がった。
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「お母さん……! ありがとう、本当に助かる……!」
だが、隆は笑わなかった。
眉にい皺を刻んだまま、じっと私を見つめている。
秒、秒。沈黙がリビングを支配した。
やがて隆は、ゆっくりと息を吐きし、テーブルのの『スケジュール案』を指先で弾いた。
「いいだろう」
「……隆さん?」
「そこまで言うなら、試してみろ」
隆の目は、酷なを宿していた。
「から週、そのにいてある通りの活を『お試し』でやってみろ」
「お試しって……理はまだ引っ越してきてないのよ?」
「関係ない。理は今のアパートから通勤し、おは毎夕方に悠斗を保育園へ迎えにき、ここへ連れてきて飯をわせ、呂に入れ、残業のは泊まらせろ。来週の曜の研修とやらも、丸預かれ。そのにいた通りにな」
隆はちがり、私を見ろした。
「で『できる』と言うのは簡単だ。だが、おが引き受けようとしているのがどれほどのさなのか、自分の体で測ってみろ。週やり切れたら、あいつらをこのにまわせることを認めてやる」
それは、夫から私への、酷な挑戦状だった。
理を甘やかすなと鳴るのではなく、私がどれほど無謀な選択をしようとしているのかを、見せつけるための罠。
カチンとに血がった。
、主婦としてこのを回してきたのだ。子育てだって度経験している。
たかだか週の孫の世話くらい、やってやれないはずがない。
「……望むところよ」
私は顔をげ、夫の線を真っ向から受け止めた。
「ちゃんとやれるってこと、証して見せるわ」
「そうか」
隆はそれだけ言うと、度と理の方を見ずに、リビングをてった。
バタン、と斎のドアがく閉まる音が響いた。
「お母さん……ごめんね。お父さん、あんな頑固で」
理が私の腕にすがりついてきた。
その温もりに触れながら、私は「丈夫よ」と笑ってみせた。
けれど、夕方に理と悠斗を見送り、で玄関の鍵を閉めた。
暗い廊の突き当たり、納戸の奥に押し込まれたキッズチェアの残像が、なぜか胸の奥にたくこびりついてれなかった。
「おは悔するぞ、千恵」
り際の夫の聴が、静まり返ったのに、気に霊していた。