"都合のいい下請けの妹" 第14話
畳のに差しされた、あの鍵
「美羽、着替えましょう。にがってなさい」
由美さんが美羽のを引き、無言で階へとがっていった。
階段を軋ませる音が消えると、階には完全な静寂が落ちた。
エアコンのファンが、カタカタと乾いた異音をてている。
居の真ん、父がずっと座っていた古い籐の楽子に、誠が力なく沈み込んでいた。
黒いネクタイはすでにされ、畳のに投げ捨てられている。
丸められた背は、まるで空気が抜けたのようにさく見えた。
親戚から浴びせられた軽蔑の言葉と、自分自の無力さに打ちのめされ、半ばの男が完全に骨を抜かれていた。
私は持参したハンドバッグを肩にかけ、数珠をバッグの奥に仕った。
「じゃあ、私はこれで帰るわね」
私がちがると、誠の肩がビクッとねた。
「……奈津子」
掠れた、湿った声だった。
誠は子からちがろうとしたが、に力が入らないのか、よろめいて畳にをついた。
そして、うようにして座卓のまでみると、スーツのスラックスのポケットにを突っ込んだ。
震える指先が、ポケットからつの属片を引きずりした。
チャリン、と。
っぽいプラスチックの擦れる音が、静まり返った部に響いた。
座卓の目調の板のに、それが置かれた。
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ヶ、この部の玄関で私から奪い取った、真鍮の鍵。
猫のキーホルダーのの部分が、しだけ欠けていた。
「……持ってけよ」
誠は俯いたまま、鍵から目を逸らすようにして言った。
「これ、おの鍵だ。……返してやる」
私は座卓のにったまま、置かれた鍵を見ろした。
指本、触れようとはしなかった。
「どうして?」
私の静かな問いに、誠は顔を歪め、苦しそうに息を吐きした。
「どうしてって……おのだからだろ。今だって、結局おがをけてくれたし、美羽の面倒も見てくれた。俺じゃ……何つできなかった。おがいないと、このは回らないんだよ。だから、持ってろよ。いつでも実に来ていいから」
「いつでも来ていい?」
私はさく息を吸い込み、徹な線を兄の頂部へと落とした。
「兄さん。私が今ここに来て、恥をかきそうなあなたを部分に助けてあげたから、その『ご褒美』として鍵を恵んでくれるの?」
誠がハッとして顔をげた。
その目には、妹の酷な言葉が理解できないという困惑が浮かんでいた。
「ち、違うだろ! 俺は悪かったって認めてるんだよ! おが必だって言ってるんだ!」
「そうね。あなたは私を『必』としているわ」
私は歩、座卓へとづいた。
だが、はポケットに入れたままだった。
「でもね、兄さん。あなたが求めているのは『妹』じゃない。
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自分の代わりにをかぶり、恥をかき、親戚の矢面にって、散らかったゴミを片付けてくれる『便利な代わり』よ」
「奈津子……」
「自分のプライドを満たすときは『男の権利』を振りかざして私を追いし、自分の無能さで活が破綻したときだけ『族の絆』をいして鍵を押し付ける」
私はテーブルのの鍵を、差し指の先でツンと押し戻した。
真鍮の鍵が、誠の膝元へと滑り落ちる。
「もし、あなたに都よく使われているときだけが『このの族』だというなら――私、この鍵は絶対に受け取らない」
誠の顔が、絶望に歪んだ。
「お……族を見捨てる気かよ……! 美羽はどうなるんだ! 親父の仏壇は誰が守るんだ!」
「美羽の親はあなたよ。仏壇を守ると決めてを継いだのも、あなた。全部、自分で背負いなさい」
私は踵を返した。
もう、言い残すことは何もなかった。
「待てよ! 奈津子! おい!」
背から誠の叫び声が追いかけてきたが、私は度も振り返らなかった。
玄関で黒いパンプスを履き、い引き戸をける。
は、焼け付くような真のに満ちていた。
汗が首筋を伝ったが、胸のの通しは、これまでののどの瞬よりも清々しかった。
私は鍵を持たずに、あのをた。
そして度と、誰かの罪を肩代わりするために戻ることはないと、に誓っていた。