"都合のいい下請けの妹" 第11話
「私はもう、代わりにはならない」
通話を切ったのリビングは、驚くほど静まり返っていた。
テーブルのの計は、すでに夜の零を指していた。
私はちがり、寝のクローゼットから黒い喪を取りした。
父の周忌のために調した、装飾のないシンプルなアンサンブル。
ハンガーにかかったその黒い布を見つめながら、私は過の記憶を繰り寄せていた。
のも、昨のも、私はの夜から実に泊まり込んでいた。
の効かない台所にち、汗だくになりながら鍋で麦茶を沸かし、親戚が持ち寄る量の産を仕分けし、座布団の埃を叩いて並べていた。
その、兄は何をしていたか。
居の涼しいが当たる所で、昼から缶ビールをけ、テレビの野球を見ながら言っていたのだ。
「奈津子、氷がりないぞ」「お茶がぬるいぞ」と。
当の私は、それを「男のは法事の準備なんて分からないから仕方ない」と諦めていた。
自分がかいがいしくち働くことで、父が親戚ので恥をかかずに済む。
「奈津子さんは本当によく気がつく」と褒められることで、自分の価値を確かめていた。
(私は、兄を無能にした共犯者だった)
由美さんのあの刺すような言葉が、のでリフレインした。
その通りだった。
私がすべての痛みを先回りして取り除いてきたからこそ、兄はを過ぎても「嫌になれば誰かが尻拭いをしてくれる子ども」
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のままでいられたのだ。
だが、は違う。
ピロン、とスマートフォンが鳴った。
美羽からのメッセージだった。
『伯母ちゃん、来てくれるの?』
私は指をかした。
『ええ、くわよ。でも、お仕事のお伝いはしないの。美羽と緒に、おじいちゃんにお線をあげにくだけ』
しがあって、返信が返ってきた。
『うん。伯母ちゃんが来てくれるなら、美羽、怖くない』
そのい返信に、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
歳の子どもに、こんな庭の歪みを背負わせてしまった。
たちの勝なプライドと甘えの犠牲になったのは、いつだって美羽だった。
は、美羽を守る。
けれど、兄は絶対に救わない。
私はスマートフォンを伏せ、ベッドに入った。
議と、緊張はなかった。
かつてのように「を完璧に乗り切らなければ」というプレッシャーは、どこにもなかった。
あのがどう破綻しようと、親戚から兄がどれほど罵倒されようと、それはすべて兄が支払うべき「授業料」なのだから。
翌朝、。
京の空は、朝から容赦のない差しが照りつけていた。
私は喪に袖を通し、髪をろでつに束ねた。
鏡のの自分は、驚くほど静な目をしていた。
化粧はく、も控えめなを選んだ。
数珠と黒の袱紗をバッグに入れ、計を確認する。
午分。
に乗り、実の最寄り駅に着くのが分。
そこから歩いて、ちょうど約束の分になる。
かつての私なら、には実に着いて、エプロンをつけて掃除をかけていただろう。
だが、今の私は、招待されたの客に過ぎない。
玄関で黒いパンプスを履き、鍵をにした。
真鍮の鍵は、もうない。
インターホンを鳴らし、主である兄に扉をけてもらうのだ。
私はく息を吸い込み、ドアノブにをかけた。
これから始まるのは、な族の解などではない。
以にわたって歪み続けた庭の病理を、のに晒すための、残酷な通過儀礼だ。
ガチャリと鍵をけ、私は真の気がち込めるの世界へとを踏みした。