"都合のいい下請けの妹" 第9話
に戻された盆の仕し注文
『無理』
送信した文字は、たく私のスマートフォンの画面に張り付いたまま消えなかった。
既読はつかなかった。
おそらく兄は、その文字を見た瞬に画面を伏せ、りに震えているのだろう。
私はスマートフォンを伏せ、予定通り週末の残業を片付けた。
もう、あのののを自分で被りにく気は微もなかった。
だが、現実の崩壊は、私の像を遥かに超える速度でんでいた。
曜、父の初盆(盆)をに控えた夕方のことだった。
退勤の支度をしていた私の社用携帯に、見覚えのない固定話の番号から着信が入った。
嫌な予がしながら通話ボタンを押すと、聞き慣れた老婦の嗄れ声がび込んできた。
『あ、奈津子さん? よかった、繋がった……魚常(うおつね)の女将です』
「魚常さん……?」
胸の奥がキュッと縮んだ。
実が以、法事のたびに精料理の仕しを頼んでいた、駅の老舗割烹だった。
父の好物だった胡麻豆腐と鮎の塩焼きを、いつも特別に仕込んでくれていただ。
『あのね、変言いにくいんだけど……さっきお兄様がに鳴り込んできてね』
女将さんの声は困惑と憤りで震えていた。
『昨の夜、ネットから盆用の仕しの注文が入ってたのよ。でもね、お盆の期はも閉まるし、週までの予約が原則でしょう? うちみたいなさな板じゃ、の追加なんてどうしても材が揃わないの。
広告
それを丁寧にお断りのお話をしたら……』
女将さんは息を呑み、声を落とした。
『お兄様が先で、「客にしてやってるのに客を選ぶのか」「親父の代からの付きいを何だとってるんだ」って声をげられて……のお客様もいらっしゃるで、注文をカウンターに叩きつけて帰られたのよ』
血の気が引いていくのがわかった。
『奈津子さんが配してくださっていた頃は、いつもヶの命に、丁寧にお話をいただいていたから……まさかこんなことになるなんてわなくて。うちとしても、あんな態度を取られては、もうお引き受けできませんとお伝えしたの。……本当に、申し訳ないんだけど』
「……いいえ、女将さん」
私はくをげた。話越しで相には見えないと分かっていても、をげずにはいられなかった。
「こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした。父が、どれほど魚常さんのお料理をんでいたか……。兄の非礼を、からお詫びします」
『奈津子さんが謝ることじゃないのよ。でもね、お盆の料理、でもう配できるところはないとうわ。どこもヶには締め切ってるはずだから……』
通話を終えた瞬、私の指先はえ切っていた。
兄は、何も分かっていなかったのだ。
お盆の仕し料理が、話本でいつでも湧いててくる魔法だとでもっていたのか。
広告
私が毎、父の体調を見計らいながら、初の段階で親戚の欠をひとり確認し、アレルギーや齢者の好みを考慮して、魚常の女将と何度も打ちわせをねていたことなど、度も像したことすらなかったのだ。
「男だから」「跡取りだから」とふんぞり返り、裏で誰かがを被ってえていた準備を、傲な怠で台無しにした。
その直、今度は私の個用スマートフォンがく震えた。
メッセージアプリをくと、美羽からのいメッセージが入っていた。
『伯母ちゃん、お父さんとお母さんがまた喧嘩してる』
『お母さん、スーツケース持っててっちゃった』
画面を見つめたまま、私は息を止めた。
『お母さん、もう無理だって叫んでた』
『お父さん、のでずっと物に当たってる』
『、お坊さんが来るのに、座布団もお茶も何もないって』
歳の女が、暗い部の片隅で、震える指で打ったであろう文字。
その文字文字から、逃げのない恐怖が滲みていた。
計の針は、夜のを回っていた。
盆の法は、の午から始まる。
親戚たちが集まり、菩提寺の職がやってくるまで、あともなかった。
私は画面を閉じ、部のかりを消した。
救いのを差し伸べるべきではない。
これは、兄が自分で選んだ「独」
の結末だ。
そう自分に言い聞かせながら、私は暗のに座り続けた。
夜がまるにつれ、胸のざわめきは増していく。
そして夜分。
静まり返ったリビングで、テーブルのに置いたスマートフォンが、狂ったような振を始めた。
画面に浮かびがったのは、誠からの着信。
履歴を見れば、こので件もの着信が積みがっていた。