"都合のいい下請けの妹" 第8話
「回りなのに、いつもありがとう」
褪せた処方箋の裏に、万の青いインクで、父の掠れた文字が並んでいた。
『奈津子へ。
今も透析の送迎、すまなかったな。
おはいつも「会社のついでだから」と笑って言ってくれるが、
民病院とおの会社は、最初から完全に反対方向だ。
父さんは、ずっとっているよ。
おが無理をしてをやりくりしてくれていること。
本当に、いつもありがとうな』
臓が、たい氷の刃でく抉られたような気がした。
界が歪み、を持つ指先がガタガタと震えした。
(ってたんだ……)
父は、っていたのだ。
私が毎週、始業の朝に実へ寄り、透析を終えた父を病院から連れ帰り、そこからを乗り継いで息を切らしながら会社へっていたことを。
「ついでだから気にしないで」という私の言葉が、父に気を使わせないための精杯の嘘だったことを、父は最初から全部見抜いていたのだ。
涙がボロボロと処方箋のに落ちた。
だが、その涙は、や謝の涙ではなかった。
胸の奥から湧きがってきたのは、底れない、鉛のようにい絶望だった。
(っていて、父さんは度だって誠兄さんを叱らなかった)
(っていて、度だって『今は誠にやらせる』とは言わなかった)
(っていて……遺言つ残さず、あのに私の箇所の居所も残さず逝ってしまったんだ)
広告
父は私をしていたのだろう。
謝もしていただろう。
このをいた瞬の父の気持ちに、嘘はなかったはずだ。
けれど、父もまた、甘えていたのだ。
男には「の跡取り」としての体面と財産をそのまま残し、
面倒で臭い介護の負担は、「優しい妹」の無償の善にすべて丸投げして、都よく消費していた。
「回りなのに、ありがとう」とにくことで、父は自分の罪悪を免罪していただけではないのか。
本当に私をっていたなら、なぜあの、誠に向かって「このは奈津子とで半分ずつにしなさい」と、言遺してくれなかったのか。
されていた。
けれど、同に私は、最も狡猾な形で搾取されていたのだ。
兄が突然怪物になったわけではなかった。
父が何もかけて作りげた「男が威張り、娘がで汗を流す」という便利すぎる庭のシステムを、兄はただ忠実に受け継いだだけに過ぎない。
私は涙をの甲で乱暴に拭い取った。
元の処方箋の片を、ゆっくりと、しかし確実につに引き裂いた。
ビリ、というさな音が、静まり返った部に乾いて響いた。
もう、過の父親の優しさに縋って自分を慰めるのは終わりだ。
私は、誰の代わりでもない。
あのを支えるための便利なクッションでもない。
引き裂いたをゴミ箱に落とした、その瞬だった。
広告
テーブルので、着信拒否にしていなかったショートメッセージの受信音が、甲く鳴り響いた。
差は、兄の誠だった。
話を拒否されたため、普段は使わないSMSで送りつけてきたのだ。
そこには、これまでのような命令調ではなく、パニックに陥ったような乱れた文章が連なっていた。
『頼むから連絡にてくれ。
盆の仕しが全部予約で埋まっててどこも取れない。
親父の兄弟がに泊まる部の布団もない。
寺の職から「話が違う」ってりの話がかかってきて、もう俺じゃどうにもならないんだ。
奈津子、頼む。
おが昔頼んでた仕しの裏の連絡先を教えてくれ。
今すぐ実に来てくれ』
画面の文字を見つめながら、私は唇の端をわずかに引きげた。
あれほど威張り散らし、私を「部者」として切り捨てた男の、これが無様な実態だった。
父親という巨な庇護者を失い、妹という便利な請けを失った男が、たったヶでそのっぺらなプライドを打ち砕かれている。
私は返信ボタンを押し、親指をかした。
打ち込んだ文字は、たったの文字。
『無理』
送信ボタンを押すと、即座に画面が暗転した。
だが、物語の歯は、ここからさらに残酷な現実をあのに突きつけることになる。