"夫の葬儀で別の男を父と呼んだ息子" 第12話
周忌の線の煙
退院から週が過ぎ、季節は初から本格なへと移り変わろうとしていた。
悠斗の体調は完全に回復し、遅れていた学の授業にも無事に戻ることができた。
卓には以のような穏やかさが戻りつつあったが、私と悠斗のには、言葉にこそさないものの、あのを境に変化した空気が確かにしていた。
曜の午、玄関のチャイムが激しく鳴った。
扉をけると、義母が喪の案内状の束をに、険しい顔でっていた。
「美さん、がらせてもらうわよ」
義母は靴を脱ぐなり居へみ、仏壇のに正座して拓也の遺にをわせた。
チーン、と鳴らされた鈴の音が、くく部に響き渡る。
「来で、拓也の周忌よ」
義母はちがると、ダイニングテーブルに案内状のリストを広げた。
「親戚にはもう連絡を入れてあるわ。お寺の配も、お斎の会も私が全部仕切ったから。美さんは当、悠斗を連れて粗相のないように座っていればいいからね」
「……ありがとうございます、お義母さん」
「それからね」
義母は鋭い目つきで私を睨み据えた。
「葬儀のみたいな醜態は、度と御免よ。親戚の連も、あののことをまだでヒソヒソ言ってるんだから。悠斗には、父親の法でふざけた真似は絶対に許さないと、母親のあなたから厳しく言い聞かせておきなさい」
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そのトゲのある言い方に、私は胸の奥がきしむのをじた。
「お義母さん、悠斗はふざけてあんなことを言ったんじゃありません。あの子なりに、傷ついて……」
「言い訳はいいのよ!」
義母はテーブルをバンと叩いた。
「あの男が拓也をどれだけ苦しめたか、美さんだってしは分かったでしょう! あんな疫病神のを、拓也の法にチラつかせること自体が冒涜なのよ。あの子が変な気を起こさないよう、当はしっかり綱を握っておきなさい」
義母の甲い声が、廊まで響いていたはずだ。
その、自にいたはずの悠斗が、静かにリビングの引き戸をけて入ってきた。
「悠斗……」
私が声をかけると、悠斗は義母のに歩み寄り、テーブルのの案内状を見つめた。
取り乱す様子もなく、りをわにするわけでもない。
その表は、気なほど徹で、静まり返っていた。
「おばあちゃん」
悠斗がをいた。
「何よ、悠斗。ちゃんとお父さんにをわせたの?」
「……周忌に、誠おじさんは来ちゃ駄目なの?」
部の空気が、瞬で凍りついた。
義母の顔が、りと信じられないいで真っ赤に染まっていく。
「あんた……! 今、何て言ったの?! あの男の名を、このですんじゃないよ! お父さんを殺したも同然の男を、法事に呼ぶわけがないでしょう!」
義母の号がぶ。
しかし、悠斗の瞳は微だにしなかった。
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以のように泣き叫ぶことも、物を投げつけることもない。
ただ、まっすぐに義母を見つめ、静かに、だが鋼のようにい声で言った。
「誠おじさんが来ちゃいけないなら……僕も、お父さんの周忌にはない」
「な……!」
義母が息を呑み、言葉を失った。
私も、息子の言葉に背筋が凍るような戦慄を覚えた。
「悠斗、何を言ってるの……!」
「僕が言ってるのは、本当のことだよ」
悠斗は私に向き直った。その瞳には、かつての迷いや恐れは切なかった。
「お父さんは事だよ。好きだったよ。……でも、誠おじさんのことを悪魔みたいに言って、最初からいなかったみたいにする所なら、僕はきたくない。お父さんを偲ぶために、誠おじさんを傷つけるようなことは、もう絶対にしたくないんだ」
悠斗はそれだけ言うと、く礼し、自分の部へと戻っていった。
静かに閉まったドアの音が、決定な亀裂を告げていた。
「美さん……! あんた、あの子にどんな教育をしてるのよ!」
義母が狂乱したように私に詰め寄ってきた。
肩を掴まれ、激しく揺さぶられる。
「んだ拓也への当てつけのつもり?! 息子の母親失格よ! あの子を説得しなさい! 座してでも法事に席させなさい!」
義母の鳴り声を聞きながら、私の線は、仏壇ので微笑んでいる拓也の遺へと向かっていた。
拓也。
あなたが遺した憎しみは、今、あなたのした息子をここまで追い詰めている。
者の尊厳を守るために、私はきている息子を壊さなければならないのか。
私は義母のを、静かに、だが度と掴ませないさで振りほどいた。
「お義母さん。……し、私にをください」
「美さん?!」
「悠斗の母親は、私です。……私が、決めます」
私の声はく、自分でも驚くほど震えていなかった。
者が遺した境界線を、きている私たちがどう引き直すべきなのか。
その答えをすための最のが、刻刻と迫っていた。