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"夫の葬儀で別の男を父と呼んだ息子" 第8話

革のネームタグ

翌の午、勤務先のデスクでパソコンに向かっていると、私の携帯が鋭く鳴った。

画面には「第学」の文字。

嫌な予がして、慌てて通話ボタンを押した。

「田悠斗くんのお母様でしょうか。教の松永です。実は、悠斗くんが放課、同級のお子さんとしトラブルになりまして……現、保健におります」

臓がねがった。

「怪は……怪はあるんですか?」

「お互いに擦り傷程度ですが、悠斗くんがまったくをいてくださらなくてですね。度、ご労いただけますでしょうか」

私は退の続きを取り、タクシーを拾って学へと急いだ。

保健のドアをけると、消毒液の匂いがをついた。

パイプ子に座った教と担任の女性教師が、申し訳なさそうにちがった。

ベッドの端に、悠斗が座っていた。

膝にきな絆創膏が貼られ、の肘が赤く擦りむけている。

体操着の胸元がで汚れていたが、悠斗は頑なにを見つめたまま、微だにしなかった。

「お母様、お忙しいところ申し訳ありません」

担任の教師が声で説してくれた。

庭でサッカーをしていた際、相の男子徒と些細な接触があり、そこから悠斗が相に殴りかかるような激しい取っ組みいになったのだという。

「相のお子さんが、『悠斗のは最お葬式があって変なんだから、らせるなよ』とやかすようなことを言ってしまったらしくて……」

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「……相のお子さんは?」

「あちらは保護者の方と緒に、先ほどお帰りになりました。擦り傷程度で、事には至っていません。ただ、悠斗くんがどうしてそこまで激昂したのか、理由を切話してくれないのです」

私は悠斗のに歩み寄り、膝をついた。

「悠斗。丈夫? 痛むところはない?」

悠斗は私の顔を見ようとしない。

唇を文字に結び、い表のまま、沈黙を守り続けている。

その頑なな態度は、まるで周囲の全員を敵だと見なしているかのようだった。

「先方、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。自宅で、よく話を聞いてみます」

私は々とをげ、悠斗のを取ろうとした。

だが、悠斗は私のをすり抜け、でちがると、保健の隅に置かれていたランドセルを乱暴に背負った。

その、私の界につの物がび込んできた。

ランドセルのサイドポケットの具に、古びた革のキーホルダーがぶらがっていた。

茶い牛革を角く切り抜き、周囲を無骨な太い糸で縫いした、ハンドメイドのネームタグだ。

表面には、焼きペンで器用に文字が刻まれている。

『YUTO』

その文字を見た瞬、私のが止まった。

記憶の引きしが、突然いた。

。まだ悠斗が歳の頃。

曜の午、リビングのこたつで、拓也と佐伯がビールをみながら笑いっていた。

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先が器用だった佐伯が、レザークラフトの具を広げて、さな悠斗のために懸命作っていたのが、あのネームタグだった。

『悠斗、これランドセル買うまで事に取っとけよ。おじさんが名彫ってやったからな』

『うん! 誠お父さん、ありがとう!』

『おいおい、誠ばっかりずるいぞ。俺もなんか作ろうか』

拓也も笑っていた。誰もが笑っていた。

あの景は、でも嘘でもなかったのだ。

拓也が佐伯をから追いし、佐伯の私物をすべて捨てさせたあの、悠斗はこのネームタグだけを、誰にも見つからない所にずっと隠し持っていたのだ。

そして、になった今でも、ランドセルに付け続けていた。

保健をて、夕暮れのへと続く渡り廊を歩きながら、私は悠斗の背に声をかけた。

「悠斗」

悠斗はち止まったが、振り返らない。

「それ……佐伯さんが作ってくれたものね」

悠斗の細い肩が、張った。

彼は背負ったランドセルにを伸ばし、ネームタグをでギュッと包み込むように握りしめた。

まるで、母親である私に奪われるのを警戒するように。

「捨てないでよ」

悠斗の声は、く、え切っていた。

「携帯は諦めるよ。お母さんが捨てたって言うなら、もういいよ。……でも、これは絶対に渡さない」

「悠斗……」

「スマホを取りげても、部のものを全部捨てたって、無駄だよ」

悠斗はゆっくりと振り返った。

夕陽を逆に受けたその瞳には、歳の子供とはえない、くて暗い決が宿っていた。

「僕のから、あのを消すことなんてできないよ。お父さんにもできなかったんだから、お母さんにだって、できるわけないだろ」

悠斗はそれだけ言い捨てると、私を置きりにして、赤く染まる通学をでりっていった。

夕が吹き抜け、私の頬をたく撫でた。

私はただ、さくなっていく息子の背を見つめながら、そのにち尽くすことしかできなかった。

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