"夫の葬儀で別の男を父と呼んだ息子" 第5話
ファミレスのナプキン
平の午、郊の国沿いにあるファミリーレストランは、まばらな客しかいなかった。
ドリンクバーの械がく唸る音と、くの席で主婦たちが交わす笑い声だけが響いている。
向かいの席に座る佐伯誠は、メニュー表を度もこうとしなかった。
昨と同じ、襟元のくたびれたシャツ。
両をテーブルので固く組み、運ばれてきたたいを見つめたまま、微だにしない。
目のに刻まれたい隈が、この男が過ごしてきたのさを物語っていた。
「……来てくださって、ありがとうございます」
佐伯が掠れた声で言った。
その声に、私は同を覚える余裕はなかった。
バッグから、昨見つけたあの名刺を取りし、テーブルの央に滑らせる。
「単刀直入に伺います。なぜ、葬儀に来たんですか」
私の声は、自分でも驚くほど淡だった。
「悠斗があなたに抱きついて『お父さん』と呼んだとき、斎にいた全員がどうったか分かりますか。夫の棺ので、あの子にそんな恥をかかせて……あなたは体、何をしに来たんですか」
佐伯の肩が、さくねた。
彼は顔をげず、テーブルの隅に置かれたナプキンを枚引き抜くと、それを指先でさく折り畳み始めた。
「……申し訳ありませんでした」
「謝罪を聞きに来たんじゃありません。
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理由を聞いているんです」
佐伯はさく折ったナプキンを、さらにつ折りにした。
指先が微かに震えている。
「拓也がくなったと、共通のりいから聞きました。……どうしても、顔だけは見にきたかった。でも、美さんや悠斗のにる資格がないことは分かっていたんです。だから、番ろで、焼だけ済ませてすぐにちるつもりでした」
「資格がない?」
「はい」
「どうしてですか。義母は、あなたが会社のおを使い込んで潰したと言っていました。それは本当なんですか」
佐伯のが止まった。
彼はゆっくりと顔をげた。その瞳には、言い訳をするの卑屈さではなく、取り返しのつかない罪を背負い続けたの、暗い諦めが宿っていた。
「お母さんの仰る通りです。……私が、会社を潰しました」
息を呑んだ。
どこかで「誤解であってほしい」と願っていた自分に気づき、私は内で舌打ちした。
「今から、規事業の資繰りがき詰まったとき、私は拓也に相談もせず、会社の運転資を自分の個な負債の補填に回しました。すぐに戻せるはずだった。だが、穴は塞がらなかった。拓也が気づいたときには、もう会社は遅れでした」
淡々と、を交えずに佐伯は語った。
それがかえって、事実に狂いがないことを証していた。
「拓也はり狂いました。
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当然です。からの友で、互いに全財産を賭けてちげた会社だった。拓也は私を殴り、度と顔を見せるなと鳴りました。……あのは正しかった。拓也が私をむのは、当然なんです」
「それなら……」
喉の奥が苦く焼けるようだった。
「それなら、なぜ悠斗にづいたんですか。拓也があれほどあなたを拒絶していたのに、なぜ半、悠斗に隠れて連絡を取るような真似をしたんですか!」
語気がくなり、隣のボックス席にいた客がこちらをちらりと見た。
だが、を抑えられなかった。
夫を裏切り、庭を破滅の危に追い込んだ男が、夫のの直に息子と密会していた。
母親として、これ以の恐怖はなかった。
「……半、駅で偶然見かけたんです」
佐伯は折り畳まれたナプキンをく押し潰した。
「ランドセルを背負った悠斗が、友達と笑いながら歩いていました。私がっている悠斗は、まだ自転にも乗れない、さかった頃の姿のままで止まっていた。きくなったな、元気で育ってくれたんだなとったら……気がついたら、声をかけていました」
「それで、連絡先を渡したの? 学の子供に?」
「……違っていたと分かっています。弁解の余もありません」
佐伯はテーブルに両を突き、くをげた。
髪の混じった頂部が、私の目のに突きされる。
「美さん、私は拓也の代わりになろうなんて、これっぽっちもっていません。庭を壊すつもりもありませんでした。ただ……もし悠斗が許してくれるなら、たまにでいい、あの子が元気でやっている姿を、くから見守ることを許してはいただけないでしょうか」
その言葉を聞いた瞬、私のでたいりが頂点に達した。
「冗談じゃないわ」
私は席をち、え切った茶の伝票を掴んだ。
「拓也はもうにました。でも、拓也がした決断を、私が勝に覆す筋いはありません。度と悠斗に連絡しないでください。もし次があったら、警察に相談します」
佐伯はをげたまま、何も言い返さなかった。
テーブルのには、さく角く折り潰されたナプキンだけが、取り残されていた。