"夫の葬儀で別の男を父と呼んだ息子" 第4話
名刺と夜のコール音
夕方、学から帰ってきた悠斗は、相変わらずを利かなかった。
ランドセルを放りし、自に閉じこもろうとする息子の腕を、私は引き止めた。
「悠斗、これを見て」
ダイニングテーブルのに、先ほど見つけた写真を枚だけ置いておいた。
自転の練習をしている、悠斗と佐伯の写真だ。
悠斗のが止まった。
写真を見つめる息子の瞳が、かすかに揺れた。
「……見つけたんだ」
「ええ。押し入れの奥にあったわ」
私は悠斗のにしゃがみ込み、その目をまっすぐに見つめた。
「悠斗。ママはあなたをりたいんじゃないの。ただ、本当のことがりたいだけ。あなたが昨、あのを『お父さん』って呼んだ理由が、この写真を見てしだけ分かった気がする。このは、ずっとあなたのそばにいたのね」
悠斗は唇を噛みしめ、ぽつりと言った。
「……誠おじさんだよ」
「え?」
「普段は、誠おじさんって呼んでた。でも、幼稚園のとき、先に『悠斗くんのお父さん?』って聞かれて、僕がうんって言ったら、お父さんも誠おじさんも笑って……それから、たまに『誠お父さん』って呼ぶようになったんだ」
悠斗の声は、昔を懐かしむようにしだけ柔らかくなっていた。
「でも、学にがる、急にお父さんがったんだ。『もう度とあいつに会うな』って。『あいつはおのお父さんじゃない、名も呼ぶな』って、すごく怖い顔で……。
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僕の部にあった誠おじさんのおもちゃも、全部捨てられた」
「拓也さんが……?」
「うん。それから全然会えなくなった。でもね、半……」
悠斗は息を潜めるように、声を段くした。
「塾の帰りで、ばったり会ったんだ。駅のコンビニので」
臓がねがった。
半。拓也がくなる数ヶだ。
「誠おじさん、僕の名を呼んで……泣きそうな顔をしてた。背が伸びたな、きくなったなって。僕、嬉しかった。ずっと会いたかったから。それから、に回くらい、話で話してた。お父さんには内緒で」
「話……?」
「これ」
悠斗がポケットから取りしたのは、古びたキッズ用の携帯話だった。
契約は切れているはずだが、Wi-Fi環境があればメッセージアプリが使えるタイプの端末だ。
拓也が昔、悠斗に買い与えて、もう使っていないとばかりっていたものだった。
「誠おじさんが、困ったことがあったらここにかけておいでって、古いスマホをくれたんだ。お父さんにバレたらられるから、ずっと隠してた。……ごめんなさい、お母さん」
悠斗は再びうつむき、さく肩を震わせた。
りは湧いてこなかった。
ただ、胸の奥にたいが吹き抜けていくような、い喪失があった。
夫はに、残されたのは、私だけが何もらされていなかったという酷な事実だけだった。
拓也はなぜ、ここまで徹底して佐伯を息子の世界から消しようとしたのか。
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そして佐伯は、なぜ拓也のをって、あのに現れたのか。
その夜、悠斗が寝静まったのを見計らい、私はリビングのかりを落とした。
元には、昼見つけた佐伯の名刺がある。
裏面にかれた桁の数字。
の番号だ。もう使われていないかもしれない。
解約されて別の誰かに繋がるか、無質なアナウンスが流れるだけかもしれない。
それでも、私の指は迷わずに番号をプッシュしていた。
に当てた受話器から、プルルル、というい発信音が鳴り響く。
回、回、回。
夜の静寂の、コール音だけが私の臓の鼓となる。
諦めて通話を切ろうとした、回目のコールの途切れた瞬だった。
『……はい』
く、疲れた男の声が受話器の向こうから聞こえた。
息を呑む気配が、はっきりと伝わってくる。
私は名刺を握りしめ、掠れそうになる喉をえて言った。
「夜分に恐れ入ります。……拓也の妻の、美です」
受話器の向こうが、完全に沈黙した。
「、お話しできますか。……佐伯さん」