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"夫の葬儀で別の男を父と呼んだ息子" 第1話

喪とらない男

線の煙が、斎のい井に向かって細く昇っていた。

通夜から告別式までの、私は度もまともに座っていない。

夫の拓也が歳の若さで突然倒れ、そのまま帰らぬとなってから、世界はずっと現実を失ったままだった。

急性全。まで普通に会社へき、夜には息子の悠斗とプロ野球の継を見ていたが、翌朝にはたくなっていた。

「美さん、そろそろ最のお見送りになりますよ」

親戚の誰かに肩を叩かれ、私は械にをげた。

喪の黒いが、汗と疲労で皮膚に張り付いている。

受付帳には百以の名が並んでいた。

拓也の勤め先の司、取引先のたち、代の友、方の親戚。

会釈を交わし、定型句のお悔やみを受け取る作業の繰り返しので、しむ隙さえ与えられなかった。

棺の準備が始まり、参列者たちが々々、霊柩の方へと移を始めたときだった。

斎のい扉の脇に、見覚えのない男が、ぽつんとっていた。

代の初めくらいだろうか。

くたびれたチャコールグレーのスーツを着て、には黒い数珠を持っていた。

焼の列には並ばず、番ろの壁際にずっとを潜めるようにっていたらしい。

拓也の友や同僚はほとんど把握しているつもりだったが、その男の顔にはまったく当たりがなかった。

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ふと横を見ると、私の隣にいた義母のが止まっていた。

義母は男の姿を界に捉えた瞬、らかに表をくし、持っていた黒い扇子をく握りしめた。

「お義母さん、あの方……どなたですか?」

声で尋ねると、義母は秒ほど躊躇してから、線をそうに逸らした。

「……拓也の、昔の会社の同僚よ。もう何もに縁が切れただから、気にしなくていいわ」

その声には、単なる元同僚に対するものとはえない、たく尖った拒絶が混ざっていた。

男はこちらと目をわせようともせず、最のが焼を終えたあとに静かに祭壇へとみた。

く、くをげ、線を向ける。

その背は妙に丸く、どこか怯えているようにも見えた。

男が踵を返し、にへ向かおうとした、その瞬だった。

私のろで、ずっと私の喪の裾を掴んでいた歳の悠斗が、突然私のを振りほどいた。

「悠斗?」

制止する声などに入らないかのように、悠斗は革靴の音を響かせて駆けした。

参列者たちの線が斉に息子へと集まる。

悠斗はの扉にをかけていた男の腰に、背からがっしりと抱きついた。

男のが止まった。

ゆっくりと振り返った男の顔は、血の気が完全に引いていた。

悠斗はその男の腰にしがみついたまま、顔を胸のあたりに埋め、声を限りに泣き叫んだ。

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「お父さん……! お父さん……っ!」

斎のが、瞬で凍りついた。

親戚たちのひそひそ声も、くで鳴っていたのクラクションも、すべてが消え失せた。

私のの奥で、血液が逆流するような鋭い音がした。

お父さん?

いま、この子は誰をそう呼んだのか。

拓也の遺体は、まだ棺のに横たわっている。

その拓也ので、私の息子が、名もらない赤のに抱きつき、「お父さん」と叫んで泣いている。

「悠斗! 何言ってるの!」

私はを忘れて駆け寄り、息子の肩を掴んで力任せに引き剥がした。

悠斗の顔は涙とでぐしゃぐしゃだった。

私に引きされまいと、男の着の裾を両でく握りしめている。

「悠斗、しなさい! 誰なの、この……誰なのよ!」

私の叫び声に、周囲の親戚たちがざわめき配慮のない線を投げかけてくる。

男は唇をわなわなと震わせ、困惑と激しい苦痛の入り混じった目で、悠斗と私を交互に見つめていた。

「……すみません」

男は掠れた声でそれだけ言うと、悠斗のさなを静かに、だが確実に振りほどいた。

そして、逃げるように斎のをびしていった。

残されたのは、たい理のにへたり込んで過呼吸気に泣きじゃくる息子と、羞恥と戦慄でち尽くす私だけだった。

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