"出来が良すぎるという理由" 第12話
夜の役員フロア
午分。
夜のオフィスは、清掃業者のポリッシャーの音だけがくで響いていた。
階の第制作部。
消灯されたフロアの最奥、パーティションで区切られたシニアプランナー席に、つのデスクライトだけが点いていた。
黒澤は、パソコンの画面を見つめていた。
の同委員会に提するための、私の企画に対する告発資料を作成している最なのだろう。画面の青いが、黒澤の落ち窪んだ頬を際たせていた。
カツン、と私の革靴の音がフロアに響いた。
黒澤はキーボードを叩くを止め、顔をげずに言った。
「神か。こんなまで残業申請はていないはずだが」
「黒澤さん、お話しがあります」
私は黒澤のデスクのにち、スマートフォンの画面をにして置いた。
画面には、先ほど撮したばかりの、あの黄い付箋の写真が表示されている。
黒澤の線が、ディスプレイに落ちた。
秒、秒。
黒澤の喉仏が、さくした。
「……どこでに入れた」
声はかったが、今朝までの徹な響きは完全に消え失せていた。
「階の廃棄倉庫です。来、溶解処分されるはずだった段ボール箱のから見つけました」
私はデスクの両脇にをつき、黒澤の顔を覗き込んだ。
「葵さん。覚えていますよね?」
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黒澤の鏡の奥の瞳が、微かに揺れた。
彼は子の背もたれにゆっくりと体を預け、井を仰いだ。い、い沈息がから漏れる。
「……覚えていないとでも言えば、おは納得するのか」
「、このアイデアを最初に形にしたのは、あなたじゃない。当インターンだったさんだ。彼女のノートには、あなたが『企画協力として名を載せる』と約束したことがかれていました。でも、役員会にされた企画にも、あのマニュアルの失敗事例にも、葵の名は文字も残っていなかった」
私の声は、自分でも驚くほど静かだった。りを通り越して、ただ事実だけを突きつける徹さがあった。
「あなたは、インターンのいつきを自分の柄にして、千万円の赤字をして自滅した。そして彼女がった、その失敗の骨組みだけを『俺の誇り』として抱え込み、今度は私が同じ構造に辿り着いた途端、棒扱いして引きずりろそうとした」
「棒扱い……か」
黒澤は自嘲するように元を歪めた。
「当の広告業界がどういう所だったか、おのような今のクリーンなコンプラ研修を受けて育ったに分かるかよ」
黒澤の線が、再び私のスマートフォンに戻った。
「がアイデアをし、先輩がそれを企画にまとめ、チームの成果として提する。
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それが当たりの代だった。が優秀だったのは事実だ。あの付箋の絵を見た、俺は体が震えるほど興奮した。『これを形にすれば世界が変わる』と本気で信じたんだ」
「なら、なぜ彼女の名を消したんですか」
「消したんじゃない!」
黒澤が珍しく声を荒らげた。だが、その声はすぐに掠れ、力なく落ちた。
「……載せられなかったんだ。当の森部が言った。『インターンの落きに予算数千万をつける役員がいるか。おの単独提案として通せ。責任はおで背負え』とな」
黒澤の両が、膝ので固く握りしめられた。
「実証実験が失敗した、はすでに別の般企業へ就職が決まっていた。俺は会社から格処分を受け、ボーナスをカットされ、何もをすするような請け仕事ばかり回された。を傷つけずに済んだ、俺がを全部被ったんだと……そう自分に言い聞かせてきてきた」
「それは、あなたの自己満です」
私は容赦なく切り捨てた。
「あなたはさんを守ったんじゃない。自分が最初から最まで『で戦って破滅した才』でいたかっただけだ。さんのを認めてしまえば、あの千万円の失敗は、ただの『のアイデアを台無しにした無能な先輩』の記録になってしまうから」
黒澤は何も言えなかった。
唇をく噛み締め、線を机の目に落としたままかない。
「の朝、コンプラ委員会でこの写真を提します」
私はスマートフォンをに取った。
「あなたが私の資格取消申請を取りげないなら、私もあなたのの正を告発する。仕にして、ともこの会社をりましょう」
踵を返して歩きそうとした私の背に、黒澤の掠れた声が届いた。
「は……今、どこで何をしている?」
私はち止まった。
「区です。社内の古い退職者ログとSNSを照しました。千のれで、さな文具を継いでいます」
黒澤はゆっくりとちがり、スーツの着をに取った。
「くぞ」
「え?」
「に会う。の朝まで、まだはある」