"出来が良すぎるという理由" 第9話
湯の問い詰め
テストランの終から。
社内の空気は、朝とは変していた。
ヤマト品の川部が、森常務に対して「非常に向きな触を得た」と直接話を入れたという報が、瞬くに駆け巡ったからだ。
だが、私の胸の奥はれなかった。
黒澤は、テストランが終わったも、事に提した『資格取消申請』を取りげていなかった。
川部ので見せたあの阿吽の呼吸は、ビジネスの現におけるプロとしての反射に過ぎず、私と黒澤のに横たわる亀裂は何つ修復されていなかった。
喉の渇きを覚え、私は階の湯へ向かった。
ステンレスのシンクでマグカップを洗おうと、すりガラスの引き戸にをかけた瞬、から漏れ聞こえてくる声にが止まった。
「……なぜ取りげないんですか」
羅の声だった。
普段の落ち着いたトーンではなく、を押し殺した、鋭い詰問の響きがあった。
戸の隙からを覗くと、湯器のでコップを持った黒澤の背と、そのに仁王ちしている羅の姿が見えた。
「島か」
黒澤は振り返りもせず、湯器のボタンを押した。湯が注がれるい音が響く。
「おには関係のない話だ」
「関係あります」
羅は歩、黒澤に詰め寄った。
「ヤマト品のテストラン、川部が絶賛だったそうですね。
広告
神の企画力と、黒澤さんのリスク管理が完璧に噛みっていたって、森常務も嫌を良くしていました。そこまでやっておいて、どうしてまだ事に『神の資格を取り消せ』と言い続けているんですか?」
「仕事のクオリティと、コンペの規程違反は別の問題だ」
黒澤はややかに言い放ち、コップにティーバッグを浸した。
「神がどれだけプレゼンで取り繕おうと、あの企画の核が俺の過の企画から来ている事実は変わらない。それを『個のオリジナル』として認めることは、が社のクリエイティブに対する冒涜だ」
「建は結構です」
羅の声が、段とたくなった。
「黒澤さん、つだけ聞いていいですか」
「なんだ」
羅は、逃げを塞ぐように、黒澤の横顔をまっすぐに見据えた。
「もし、神の企画が等じゃなくて、最位の位で予選落ちしていたら……黒澤さんはわざわざ事に取消申請なんてしましたか?」
湯器のモーター音が、ふっと途切れた。
湯のが、を打ったように静まり返る。
「……何を言っている」
「図ですよね」
羅は嘲笑うような微かな息を漏らした。
「もし神の企画が誰にも評価されず、ゴミ箱に捨てられていたら、黒澤さんは『ほら見ろ、やっぱり俺の言った通り向いてない』って嘲笑って終わりだったはずです。
広告
自分の過の企画に似ていることすら、わざわざ指摘しなかったんじゃないですか?」
黒澤の背が、微かに直した。
「神が役員全員を納得させて、位を獲ってしまったから。自分がに千万円の赤字をして会社から叩き潰されたあの企画を、歳のが、たったかの識で鮮やかに成させてしまったから。だから許せないんじゃないんですか?」
「島、を慎め」
黒澤の声が、く濁った。だが、いつもの威圧はなかった。
「あなたは著作権やオリジナリティを守ろうとしているんじゃない」
羅の言が、酷なメスのように黒澤の急所を抉った。
「に自分が諦めた骸を、目のでき返らされた屈辱に、耐えられないだけでしょう」
黒澤は何も答えなかった。
持っていたコップの縁が、指の力でミシミシと潰れ、い茶がわずかににこぼれ落ちた。
扉ので息を潜めていた私は、その景をただち尽くして見つめることしかできなかった。