"出来が良すぎるという理由" 第4話
喫煙所の皿
午分。
始業まで以ある本社ビルは、空調のい唸り声だけが響いていた。
私はエレベーターで階へがった。
フロアの側の突き当たりにある、ガラス張りの喫煙スペース。
自ドアの隙から、微かに煙の匂いが漏れている。
ドアにをかざしてへ入ると、換気扇の真に、予通り黒澤がっていた。
には缶コーヒーの微糖。
皿の縁にを添え、煙を根元まで吸い込んでいるところだった。
黒澤は私が入ってきたことにも眉つかさず、煙をゆっくりと井に向けて吐きした。
「いな」
「黒澤さん」
私は抱えてきた『入社員業務基礎マニュアル』を、皿の横のスチールラックのに置いた。
百ページの折り目を、黒澤の目のでいて見せる。
「これですね」
黒澤の線が、わずかに揺れた。
鏡の奥の瞳が、黒のさな図版に落ち、それから私に戻る。
「……見つけたか」
「の研修資料です。全員に配られたものです。のアーカイブを正に漁ったわけじゃない。私はこの会社の正規の研修プロセスで、公式に提供された教材を読んだだけです」
私は歩、黒澤に歩み寄った。
昨夜もしていないせいで、声が微かに震えていた。だが、ここで引くわけにはいかなかった。
「名すら載っていませんでした。
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『失敗事例』として、たったの解説とともに晒されていた図です。私はこれを盗んだんじゃない。脳のどこかに残っていたとしても、それは会社が私のにインプットした報です」
「それがどうした」
黒澤はく吐き捨て、煙のをトントンと落とした。
「私がやったのは、このかない図を、今の代にくように組み直すことです」
私は気に捲してた。
「〇にはなかったスマートコントラクトを組み込み、スマートフォンの位置報を利用したリアルタイムマッチングを設計し、若者が参加したくなるインセンティブを設計したのは私です! こので変わったインフラをすべて計算に入れて、事業として成する利益率を弾きしたのは私なんです! 骨組みが同じだからといって、これが私の企画じゃないなんて言わせません!」
狭い喫煙のに、私の荒い息遣いだけが響いた。
黒澤は缶コーヒーをに運び、んでから、再び煙をくわえた。
るでもなく、嘲笑うでもなく、ただ淡に私の顔を見つめている。
「神」
「……なんですか」
「おのそのしい肉付けは、見事だよ。そこは認めてやる」
黒澤は皿の縁に煙を押し付けた。
ジュッというさな音がして、煙が途切れる。
「だがな、その『骨』がなければ、おの肉はどこに張り付くんだ?」
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「え……」
「『個が抱え込んでいる余剰を、プラットフォームを介さずに相互融通する』。その最初のを定義するために、の俺たちがどれだけのとをドブに捨てたとっている」
黒澤の目が、昏いを宿して細められた。
「おは、備された速のを、最のスポーツカーで速百キロして『俺の運転がいからだ』と威張っているだけだ。そのを敷くために、誰がを切り拓いて、誰が落で潰されたのかを、おは切見ようとしていない」
「それは……!」
「研修テキストに載っていたから、会社の報だから、法に使っていい? そんな法学部崩れの言い訳が、クリエイティブの世界で通用するとうか」
黒澤が歩、いを詰めてきた。
私より背のいはずの男から、逃げのない圧迫が放たれる。
「曜に、事と法務を交えたコンプライアンスの同委員会がかれる。そこで黒つける」
「私は取りげません」
私が歯をいしばって言うと、黒澤は初めて、酷くたい笑みを唇の端に浮かべた。
「そうか。なら徹底に争え。だがな、の骨のに自分の旗をててに入れた最優秀賞で、おはこの先、堂々と自分の仕事を誇れるのか?」
黒澤はそれ以何も言わず、私の肩を乱暴にかすめて喫煙をてった。
バタンと閉まった化ガラスの扉の向こうを、その痩せた背がにざかっていく。
残された喫煙で、私はスチールラックののマニュアルを見つめた。
黒澤の吸い殻から、細いの煙が、まだ筋だけちっていた。
ポケットので、スマートフォンが震えた。
画面を見ると、規事業発本部の本部名義で、全社斉送信の緊急メールが入っていた。
『若企画コンペティション結果保留に関する通:
本件係争の事実関係を調査につき、受賞案件の事業化プロジェクト着を凍結する。なお、以内に両当事者でのまたは事実認定がなされない、本度の該当案件は完全破棄とし、規予算枠は部署へ再配分されるものとする』
タイムリミットは、あと。
私と黒澤のどちらが正しいかに関わらず、計の針は確実に破滅へ向けてみ始めていた。