"出来が良すぎるという理由" 第1話
台袖の分
壇の巨な液晶スクリーンに、黒いゴシック体で私の名が浮かびがった瞬、周囲の音が数秒だけ完全に消えた。
『最優秀賞 神悠斗』
「……嘘だろ」
隣にっていた同期の肩が、私の腕にぶつかった。
続いて、まばらな拍が波のように広がり、ホール全体を包み込む。
背を誰かにく叩かれた。同期の何かが顔を潮させて私の顔を覗き込んでいる。
客席の列には、審査員を務めた役員たちが並び、形式な拍を送っていた。
入社か。
広告代理・邦エージェンシーがに度催する、若主導の規事業企画コンペティション。
参加資格は入社目までの全社員。優勝者には万円の賞と、何より規事業発本部への異、そして企画の事業化に向けたリーダー権限が与えられる。
のファイナリストので、私は最だった。
直属の司である第制作部の黒澤誠司シニアプランナーからは、準備期、度としてまともな言葉をもらえなかった。
企画を最初にデスクへ持っていった夜、黒澤は表をめくって枚目で指を止めた。
「青いな。学サークルじゃないんだ」
週、構成を全面に見直して提したも、彼はパソコンの画面から目をさずに言った。
「収益構造の解像度がすぎる。
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がどこから回るのか見えない」
度目、本選提のには、煙を吸いにる途で私のデスクの端を叩き、こう言い捨てた。
「神、おはおそらく企画に向いてない。現の管理に戻れ」
胃の奥が焼き切れるような屈辱だった。
私はその夜から、会社の仮眠とデスクを往復し、すべてのデータを組み直した。
黒澤には度と見せなかった。
部内を通さず、規定の個応募枠を使って直接事務局へエントリーシートを送り込んだ。
その結果が、これだった。
第位に選ばれた同期の羅が、歩れた所から私を見ていた。
彼女の提案した『共働き世帯向けローカル物流最適化』は、社内でも評判が最もかった本命案だ。
羅は拍をしながら、さく唇を結び、私と線がうとわずかに顎を引いた。悔しさを噛み殺した、極めて理性な表だった。
「神くん、表彰式まであと分だから。台袖の線確認して」
運営スタッフの女性から声をかけられ、私はに返った。
汗で湿った掌をスーツのスラックスで拭い、呼吸をえる。
勝ったのだ。あの黒澤が「向いていない」と切り捨てた企画で、役員全員を納得させた。
胸の奥で、く濁った達成がせりがってくるのを止められなかった。
そのだった。
「神」
く、湿り気のない声が背から落ちてきた。
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振り返ると、事部マネージャーの寺崎がっていた。
ネクタイの結び目がわずかに緩み、目のに濃い隈が張り付いている。
「ちょっといいか。こっちだ」
「あ、はい。線の確認ですよね?」
「いいから、来なさい」
寺崎は私の返答を待たず、きびすを返して非常階段脇の通へ歩きした。
ただ事ではない歩幅だった。
私は周囲の同期にさくを挙げ、りでその背を追った。
案内されたのは、メインホールの真裏にあるさな控だった。
普段は材置きとして使われている部で、折りたたみ式の机とパイプ子が脚だけ置かれている。
寺崎はドアを閉めると、内側から鍵をかけた。
カチリと鳴った属音が、狭い空に異様にきく響く。
「座れ」
「あの、寺崎さん、表彰式の段取りなら——」
「神、これを見ろ」
寺崎は机のに、クリアファイルを冊置いた。
には、今の付と受付印が押された枚のA4用が入っていた。
番の太字が、私の目にび込んできた。
『コンペティション参加資格取消申請』
用の央、申請者欄には見慣れた跡で署名がなされていた。
『第制作部 黒澤誠司』
の芯が急激にえていくのが分かった。の先から血の気が引いていく。
「……なんですか、これ」
「字の通りだ。黒澤さんから、おの企画に対して異議申してがた」
「異議って……黒澤さんは私の直属ですが、この企画には最初から切関わっていません。アドバイスすら拒絶されたんです。『向いてないからやめろ』とまで言われました。部内審査を通さなかったのは個枠の規程通りです。続きに瑕疵はありません」
になっていた。声が尖るのを自分でも抑えられない。
「続きの問題じゃない」
寺崎はく息を吐き、机に両を置いた。
「黒澤さんは、この企画がおのオリジナルとして扱われることに同していない」
「が分かりません」
私はわずで笑った。
「散々『ゴミだ』『青い』と罵倒しておいて、いざ役員に評価されて等を取ったら、今度は自分の柄にする気ですか? そんな横暴が通るわけ——」
「違う」
寺崎は私の言葉を遮った。
その目は、りでも困惑でもなく、酷くいものを見てしまったの濁りを帯びていた。
「黒澤さんは自分の柄にしろとは言っていない。署名も賞もらないと言っている。ただ、エントリーを取り消せとだけ求しているんだ」
「……じゃあ、なぜですか」
寺崎は数秒、線を私の胸元からさなかった。
そして、喉の奥から絞りすように言った。
「黒澤さんはね、『あまりにも来が良すぎる。だからこそ、神の企画であるはずがない』と言っているんだ」
臓が、嫌な音をててねた。
ドアの向こうから、表彰式の始を告げるアナウンスが、くぐもった音となって微かに響いてきた。