"「お前はただの手伝いだ」" 第12話
脚のパイプ子
翌、午。
Cホールには、張り詰めた静寂が満ちていた。
坪ほどの古い内には、余計な装飾は切なかった。祭壇は飾り気のない本の。その央に、潮に髪を乱され、皺だらけの顔で笑いしている静さんの写真が掲げられている。
祭壇を取り囲むように並べられたのは、倉庫から引っ張りしてきた脚のパイプ子だった。
定刻の分、引き戸が静かにいた。
入ってきたのは、静さんがに贔屓にしていた所の百の夫婦だった。ヨレヨレの黒いスーツを着た主が、恐る恐るを覗き込む。
「千さん……本当に、俺たちみたいなのが入っていいのかい? の社さんの母親の葬式だって聞いてたから、敷居がくて……」
「いらっしゃいませ、田さん。静さんが番に来てほしかったのは、田さんですよ」
続いて、かつて倉岡葬儀社で清掃員をしていた老女、所の銭湯の番、静さんが晩にボランティアで通っていた養護施設の職員たちが、、またと入ってきた。
誰もが価な典袋など持っていなかった。産の蜜柑をつ、あるいは庭で咲いた菊を輪、ハンカチに包んで持参してくるようなたちばかりだった。
席が次々と埋まっていく。
遺を見げた百の主が、に吹きした。
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「なんだいこの写真は! 静さんらしいや。あのお婆さん、値切り交渉のいつもこの顔で笑ってごまかしてたんだ」
「そうそう、ゲートボールで負けたも、この顔で悔しがってさあ」
あちこちから、さな笑い声が漏れた。
格式張った読経も、仰々しい弔辞もない。ただ、線の煙が揺れる、の静さんとのささやかないが、温かい言葉となって静かに交わされていた。
修司は親族席の隅に座り、終始、線をに落としていた。
その背はさく、肩は張ったまま微だにしなかった。自分のらない母親の姿を、見らぬが笑顔で語りっている。その景自体が、彼にとっては耐え難い拷問であるかのようだった。
そして、分。
ガタリと、ホールの引き戸がくいた。
入ってきた物を見て、私は息を呑んだ。
褪せた黒いレインコートの裾を濡らし、髪をろで固く束ねた女性――子だった。
子は入にち止まり、ホールのを見回した。豪華な祭壇も、見せかけの供も、着飾った名士たちもそこにはいなかった。ただ、古びたパイプ子に座るみすぼらしい老たちと、潮に吹かれて笑う老婆の写真があるだけだった。
子はゆっくりと祭壇へ歩み寄った。
写真のにつと、子の顎が微かに震え始めた。
彼女はバッグから、シワだらけの千円札が枚だけ入った、コンビニの無の向け袋を取りした。
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それを乱暴に焼台のに置く。
そして、指先を震わせながら抹を摘まみ、煙のに落とした。
「……笑いしてんじゃないよ」
子のから、掠れた声が漏れた。
「ずるいじゃないか、あんた。こんな顔して……こんなみすぼらしい所で送られて……。これじゃあ、私がみ倒すこともできないじゃないか……」
子は両で顔を覆い、そのに崩れ落ちるようにして、声を押し殺して泣いた。
誰も彼女を咎めなかった。静さんの遺だけが、変わらぬ笑顔でその涙を見ろしていた。
通夜が滞りなく終わり、参列者がり、り、会館が静寂を取り戻したのは夜の過ぎだった。
子は誰とも言葉を交わさず、濡れた傘を持ってのへ消えていった。
午零。
私は遺体の保状態を確認するため、ドライアイスの補充用のトングを持ち、本館裏の業務用保庫へと向かった。
の渡り廊を歩いていると、漆黒のの、型トラックのアイドリング音がく響いているのに気づいた。
裏の搬入。通常なら施錠されているはずの型シャッターが、センチほど持ちげられている。
隙から漏れる作業灯のかり。
私は音を忍ばせ、たいコンクリートの壁にを潜めてを覗き込んだ。
そこには、軽トラックの荷台から、がかりで巨な物体を運び込んでいる男たちの姿があった。
さメートルを超える、純の特注スタンド。
央には太い文字の墨で、こう記されていた。
『供 倉岡葬儀社取引先親睦会 同』
『供 内寺院連会 志同』
その数、全部で基。
スタンドの元で、伝票に受領印を押していたのは真奈美だった。
真奈美は搬入業者に向かって、鋭い声で囁いていた。
「急いで、番奥の資材置きに隠して! の朝、告別式の直に親族席の真んへ気に並べちゃうから。あいつがいくら騒いだって、式が始まっちゃえば客ので引きずりせっこないんだから」