みかん小説
本棚

"「お前はただの手伝いだ」" 第10話

私たちは同じ臆病者

会館へ戻ったのは午を過ぎていた。

は本りになり、アスファルトを激しく叩いている。裏の通用から旧館の事務へ入ると、え切った空気のに線の匂いだけが漂っていた。

私はコートを脱ぎ、作業机のに静さんの私信を広げた。

子の言葉が、の奥で何度もリフレインしていた。『殺し』『で私のを買えるとうな』。

あの厳格で、誰に対してもをげなかった静さんが、、毎れず万円の留を送り続けていた。それは贖罪などという綺麗なものではなく、自らが犯した過ちのさに耐えかねた、無様な掻きに過ぎなかったのだ。

私は封筒の底から、もう枚のい便箋を取りした。

千宛てに残された、静さんの最のだった。

『千。

あんたは私が憎かったろう。顔をわせれば言ばかり言って、あんたのやり方を否定してきた。

だがね、千。あんたを見ていると、昔の自分を見ているようで吐き気がしたんだよ。

あんたはこの、活の苦しい遺族を見るたびに、裏で見積もりを削り、自分の遣いやへそくりから仕入れの差額を補填してきたね。会社に内緒でドライアイスをし、骨壺のランクをげてやっていた。

あんたはそれを「優しさ」だとっているのかい?

違うよ。

広告

あんたはただ、修司のやり方と正面からぶつかるのが怖くて、裏でを拭って自分を慰めていただけだ。

あんたがで尻拭いをしてやるから、修司は自分のあくどさに気づかない。

あんたが帳尻をわせてやるから、あの子は自分が能な経営者だと錯覚し、をともわない化け物に育っていったんだ。

あんたも私も、同じ臆病者だよ。

私は体面のために客をい物にし、あんたは平穏のためにあの子の暴を黙認した。私たちはで、修司という怪物の片棒を担いできたんだ』

便箋を握る指先が、刻みに震えた。

喉の奥が焼けつくようにい。

否定したかった。私は修司の横暴を止めるために、自分のできる精杯のことをしてきたはずだ。だが、静さんの言葉は、寸分の狂いもなく私の急所を射抜いていた。

私が裏で損失を被ることで、倉岡葬儀社の「い利益率」は維持されていた。私が夜にで泣き寝入りすることで、修司と真奈美は傷ひとつ負わずに「成功」を謳していたのだ。

私は共犯者だった。

『千、だから最くらいは表にて戦いなさい。

私をあの子の虚栄から守るんじゃない。

あんたが自分のに決着をつけるために、あの子に正面から「ノー」を突きつけなさい。

それができないなら、私の骨なんて野垂れにさせたって構わない』

はそこで終わっていた。

その、からガシャン、とい鉄骨が擦れう音が響いた。

続いて、作業員たちの号とトラックのアイドリング音が、静寂を破った。

私はを胸ポケットに押し込み、勢いよく部をびした。

Cホールのの通へると、たいが吹き込む、カッパを着た、の男たちが、巨な単管パイプを組みげていた。

ビニールシートで覆われた巨なテントが、Cホールの入りを塞ぐように広げられようとしている。

「おい、もっとへ引け! ストーブの配線を急げ!」

傘も差さずに指示をしているのは、修司だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: