"「お前はただの手伝いだ」" 第4話
名だけの名簿
午。倉岡葬儀社の自ドアをくぐると、ロビーには異様な緊張が漂っていた。
正面には、すでに納棺を終えた義母の棺が仮置されていた。その周囲を取り囲むように、若社員や納棺師たちが所なげにっている。
「千さん……」
古株の運転である佐藤が、驚いたように声を漏らした。
事務所の奥から、鋭い靴音を響かせて修司が現れた。喪に着替えた彼の隣には、帳を抱えた真奈美がぴったりと寄り添っている。
「何の真似だ、千」
修司は威圧するように眉を吊りげ、私のにちはだかった。
「美から類を奪い取って、勝ち誇った顔で戻ってきたのか? 言っておくがな、あんな切れ枚で俺を排除できるとうなよ。俺は施主であり、男であり、この会社の代表取締役だ。母親の葬儀をどう差配するかは、俺が決める」
私は何も答えず、持参した公証役の公正証をクリアファイルから抜き取り、受付カウンターのい板のに叩きつけるように置いた。
乾いた音がロビーに響き渡る。
「公証役に今朝番で照会をかけました。この指示は法に完全に効です。遺言執として指定された私が受任した以、葬儀の契約、会の選定、費用の決済に至るすべての権限は私にあります。代表取締役であっても、者の確なを覆す権限はありません」
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「お……!」
「業務妨害で警察を呼びますか? それとも寺院の職に、故の遺言を無して男が暴れていると説しますか?」
修司の顔から血の気が引き、次に屈辱で赤黒く染まった。
真奈美が横からを挟む。
「ちょっと、千さん! 修司さんは社なんですよ? 倉岡葬儀社の名誉に関わるんです。この域で番きい葬儀社が、創業の母親の葬式をケチったなんて噂がったらどうするんですか!」
「あなたには発言権はありません。部者はを慎みなさい」
真奈美が息を呑み、歩退した。
私は棺のに歩み寄り、静かにをわせた。棺の窓から覗く静さんの顔は、驚くほど穏やかだった。苦しんだ様子はなく、ただい眠りについているように見える。
私はバッグから、公正証に同封されていたもう通の封――厳に糊付けされた『葬儀施細則』の封筒を取りした。
修司や美、従業員たちが見つめる、ペーパーナイフで封を切る。
からてきた便箋を広げ、私はその内容を読みげた。
「つ、式として館Aホールを使用することを固く禁ずる。使用するのは本館裏の旧式、Cホールのみとすること」
「はあ!?」
修司がわず叫んだ。
「Cホールだと!? あそこは寄りのない活保護受者や、密葬専用の坪もないボロだぞ! あんな所でおふくろを送れっていうのか!」
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私は構わず次の条項を読みげる。
「つ、社用・商用の切の供、輪を拒絶すること。典は全額辞退とすること。祭壇は飾りてず、質素な本とすること」
「ふざけるな……! 取引先や関係各所からどれだけのが集まるとってるんだ! それを全部断れだと!?」
「そして最です」
私は便箋の末尾にクリップで留められていた、枚のいを掲げた。
そこには、几帳面な静さんのきで、名と所が並んでいた。
「参列者は、ここに記された名に限定すること。親族であっても、この名簿に名のない者の入を禁ずる」
「名……?」
修司が呆然と呟いた。
「おふくろが付きってきたの数をらないのか? 数百規模のが押し寄せるんだぞ! それをたっただと!? おい、千、おが裏で何か細したんじゃないだろうな! 俺を社会に失脚させるために、母親の遺言を偽造したんじゃないのか!」
修司が私の肩を掴もうとを伸ばした。
私はそのをたく払い落とした。
「跡鑑定でも何でもしなさい。これはすべて、あなたが『成功』と呼び、誇らしげに拡してきたこの会社を、静さんがどう見ていたかの答えよ」
壁の丸計を見げる。午分。
「通夜はの。殡は。残されたはあとです」
私は名簿の番にかれた見らぬ名に指を置き、修司をややかに見据えた。
「さあ、社。者のに従って、仕事にかかりましょう」