"「お前はただの手伝いだ」" 第3話
無理いはするな
チェーンをしてドアをけると、美は乱れた髪のまま、真っ赤に腫らした目でち尽くしていた。喪ではなく、着の着のままで羽織ってきたようなのカーディガンを震わせている。
「千さん……」
「美さん。がって。お茶くらいしかせないけれど」
「ううん、がらない。これ、これを見てほしいの」
美がコートの懐から取りしたのは、茶の角形号封筒だった。表面には、見覚えのある達な毛で、義母の文字がっていた。
『延命治療及び葬儀に関する事指示 倉岡静』
裏の封じ目には、静の実印がしっかりと押されている。
「お兄ちゃん、病院からお母さんを連れ帰ってすぐに、番きなAホールの祭壇を組もうとしたの。親会社の役員や議会議員を呼んで、社葬並みの規模でやるって息巻いて……。それで、お母さんのタンスの引きしからこれを見つけしたの」
美のが刻みに震えていた。
「けたの?」
「お兄ちゃんがけたわ。そしたら……」
美から封筒を受け取り、の類を引きした。
公証役の確定付印が押された、正式な公正証だった。の付。病気ひとつしていなかった静さんが、自ら公証役へを運んで作成したものだ。
枚目の番、黒々とした太い跡で、こうかれていた。
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『、私の葬儀切に関して、男・倉岡修司の関与を固く禁ずる』
息が止まりそうになった。
そして、そのすぐに、同じ圧で記されていた。
『、葬儀の全権を持つ執として、倉岡千を指定する』
「……何よ、これ」
声が掠れた。
「お兄ちゃん、顔を真っにして鳴り散らしたわ。『こんなの無効だ、母親のがおかしくなっていたに決まってる』って。でも、公証役を通した正式な類よ。それにね、千さん……」
美がもう枚、封筒の奥に挟まっていたさな片を差しした。
それは、メモ帳を破っただけの粗末なだった。公正証とは違い、そこには万の震える文字で、千宛てのりきが残されていた。
『千へ。
あんたが嫌なら、絶対に引き受けるんじゃないよ。
無理いはさせない。これはあんたのだ。
だが、もし引き受けてくれるなら、あの子の好きにはさせないでおくれ』
の端を指で押さえたまま、私はけなくなった。
「無理いはするな」
嫁として、都のいい労働力として私を縛り付けようとする言葉ではなかった。
あのは、私が修司から放りされることも、このをる権利があることも、すべて分かったでこれを用していたのだ。
「千さん」美が私の袖を掴んだ。「私ね、最初は千さんに頼むなんて残酷すぎるとったの。
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昨婚届をさせたばかりなのに、今になって母親の野辺送りをしろだなんて、倉岡のエゴだって。でも……お母さん、ずっとからこうなることを分かってたみたいで……」
私はく息を吸い込み、たい朝の空気を肺に満たした。
「美さん」
「はい」
「私はもう、倉岡の嫁じゃない。修司の妻でもない。だから、親族の席には座らないわ」
「え……?」
「故・倉岡静から正式に依頼を受けた『葬儀執』として、業務を引き受ける。それでいいなら、会館へく」
、私は度も自分の志で仕事を引き受けたことはなかった。「社の妻だから」という理由で、押し付けられた雑務をこなしてきただけだ。
だが、これは違う。
者が私を選び、そして私に拒否する権利を与えたで、託してきた仕事だ。
私はボストンバッグから、黒のパンツスーツを取りした。