"学年五位の二浪息子" 第14話
の職員
最終願の朝は、吐く息がく凍りつくようなえ込みだった。
アパートをると、ひとつないの青空が広がっていた。たいが頬を刺す。隣を歩く直のには、昨晩できげた調査票の入った角形封筒が握られていた。
「直、袋は?」
「丈夫。ポケットに入れてるから」
く答える声は、いつになく落ち着いていた。だが、ブレザーのポケットので、指先が微かにいているのが分かった。
母の学までは、歩いて分。、あの子が度卒業したはずの通学だ。端のたまりには氷が張り、登していくたちの黄い通学が、朝に反射して揺れていた。
をくぐり、昇で来客用のスリッパに履き替える。
職員へと続く舎のい廊は、当たりが悪く、底えがした。リノリウムのを踏みしめる音が響く。
職員の引き戸の、湯の角を曲がったところで、直のがぴたりと止まった。
廊の真んに、があった。
濃紺のロングコートを着た先が、壁に背を預けてっていた。
脇には、使い古された黒革のブリーフケースを抱えている。その鏡の奥の瞳は、こちらを真っ直ぐに見据えていた。
「……来たね、直くん」
先は静かに歩み寄ってきた。鳴るわけでも、取り乱すわけでもない。
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いつもの、あの穏やかで非の打ち所のない教師の顔だった。
「佐伯さん。おはようございます。昨は失礼な留守を残してしまって申し訳ありませんでした。ですが、どうしてもこれだけは、直接直くんに渡さなければといましてね」
先はブリーフケースのジッパーをけ、から何冊もの青いクリアファイルを取りした。
ズシリとそうなの束。表には、直の名と『・特待選抜過問演習』という文字が、先の几帳面な跡でかれていた。
「これを見てごらん」
先はファイルをき、直の目のに差しした。
そこには、直がこので解いてきた、何百枚もの答案用が綴じられていた。赤いペンでき込まれた満点の数字、丁寧な添削、余に記された先からの激励の言葉。
『素らしい考力だ』
『君の解答は、模範解答よりも美しい』
『自信を持ちなさい、君は必ず頂点にてる』
「直くん。これが君の積みげてきただ。君のは、こんなにも美しい数式を紡ぎすことができる。これほどの才能を持ってまれてくるが、このに何いるとうかい?」
先の声には、偽りのないが籠もっていた。
「を諦めるということは、こので君が流した汗を、全てドブに捨てるということだ。
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へけば、君は違いなく浮いてしまう。周囲のレベルのさに退屈し、やがて自分の才能をむようになる。私はね、それが恐ろしいんだ。君のような本物の原が、凡庸な環境に呑まれて輝きを失っていく姿を、私は見たくないんだよ」
先は歩、直に歩み寄り、懇願するように両を差し伸べた。
「今ならまだにう。その封筒のをき換えなさい。先が職員に緒に入って、森脇先にをげる。今のの願枠は、まだ残っているんだ。頼むから、自分のを投げさないでくれ」
廊に、先の切実な声が反響した。
私は直の歩ろにち、拳をぎゅっと握りしめた。を挟みたかった。先の欺瞞を責めてたかった。だが、昨晩自分に誓ったのだ。この子の決断のに、親の言葉を割り込ませてはならないと。
直は差しされた答案用の束を見つめていた。
真っ赤に染まった百点の答案。
先とで、夜まで机を並べていた々の痕跡。
直の肩が、さく息を吸い込むように持ちがった。