"学年五位の二浪息子" 第10話
先のほうが詳しい
朝の半、直の部のドアがいた。
顔を洗いに洗面所へ向かおうとした直が、居のテーブルのに座ったままの私を見て、を止めた。
テーブルのには、散らばった計簿も帳も片付けてあった。ただ、めたつの湯呑みだけが置かれていた。
「直。座って」
声が掠れていた。もしていない私の顔を見て、直は何かを察したように警戒のを浮かべたが、やがて諦めたようにパイプ子を引いた。
「学……かないと」
「今、塾にはかなくていい。者面談のに、どうしてもあなたと話さなきゃいけないの」
直は線を落とし、膝のでパジャマのズボンを握りしめた。
「昨の夜、あなたが言ったこと……ずっと考えてた。私があなたの言葉を聞かなかったって言ったこと」
直の肩が、微かに張った。
「教えて。あなたが言った回って……いつのこと?」
部のが静まり返った。壁の計の針が、苦しくを刻む。
直はい沈黙の、さく息を吸い込んだ。その横顔は、歳の青というより、を押し殺すことに慣れきった、たい彫像のようだった。
「……回目は、の」
直のから、淡々とした声が紡ぎされた。
「の学見学にった、夕飯のに言ったんだ。『僕、がいい。あそこの図、すごく落ち着くし、通いやすいから』って」
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記憶が、鮮に蘇ってきた。
台所でカレーを煮込んでいた私。
『お母さん、何て答えたか覚えてる?』
直が、私をまっすぐに見つめた。責めるような調ではなかった。それがかえって、痛烈だった。
『「先が、あなたにはもっとい目標が似ってるって仰ってたわよ。じゃもったいない。先のほうが受験のこと詳しいんだから」……そう言ったんだ』
喉の奥が引き攣れた。そうだ、私はそう言った。「もったいない」と笑って、直の言葉を流した。
「回目は……回目の受験に落ちたの、」
直は伏し目がちに言葉を続けた。
「部で、机ののの格通を見てた。お母さんが部に入ってきたから、言ったんだ。『もう、浪なんてしたくない。これ以、お母さんに迷惑かけたくないし、普通のの次募集にきたい』って」
『……そしたらお母さんは、泣きながら言ったよ。「先が、直くんなら来絶対にトップで受かるって話をくれたのよ。度失敗したくらいで諦めたら、将来悔するわ。先を信じましょ」って』
「直、私は……」
「回目は、の」
直は私の言葉を遮った。その声の底に、押し殺したが微かに宿り始めていた。
「模試の、夜に胃が痛くて吐いて、トイレからられなくなった。背をさすってくれたお母さんに、僕、言ったよ。
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『もう無理だ、なんて受かるわけない。これ以勉するのが怖い』って」
『お母さん、なんて言ったとう?』
私の目から、止めようのない涙がこぼれ落ちた。
言った。
いしてしまった。
背をさすりながら、温かい湯を渡しながら、私は言ったのだ。
『丈夫よ、直。先が、これは本番のプレッシャーだって仰ってたわ。ここを乗り越えれば、いになれるから。先も応援してくれてるんだから、もうしだけしようね』って。
「お母さんはね」
直が、静かに言った。
「僕に『勉しろ』って鳴ったことは度もなかったよ。テストの点が悪くても、らなかった。だから僕も、お母さんは優しいとってた」
直の瞳から、筋の涙が頬を伝って落ちた。
「でも、違ったんだ。お母さんは、自分ので僕を縛る代わりに、全部先の言葉を使って僕を追い詰めてたんだ」
「違う……そんなつもりじゃ……!」
「同じだよ!」
直が、初めて声を荒らげた。
「僕が何を言っても、お母さんのから返ってくるのは『先はこう言ってる』『先のほうが詳しい』ばっかりだった! 僕の見が、先の見と違う、僕の言葉は全部『音』か『違い』にされた! そんなの……最初から答えが決まってるのと同じじゃないか!」
直は机に両を突き、肩を激しくさせた。
「僕が喋るのをやめたのは、先が怖かったからじゃない。
お母さんに何を言っても、全部先の言葉で塗りつぶされるのが、怖かったからだよ」
張り詰めた空気ので、直の荒い呼吸だけが響いていた。
私は両で顔を覆い、ただそのに崩れ落ちた。