"学年五位の二浪息子" 第9話
の計簿
直が部の引き戸を閉めた、居には換気扇のい唸り声だけが残されていた。
『お母さんにとって、僕の言葉は最初から「言葉」じゃなかったんだから』
の奥にこびりついたその声が、臓を針で刺すようにチクチクと痛み続けた。
私は台所の流しのにち尽くしていた。え切った油汚れを洗う気力も起きず、蛇から落ちる滴をただ見つめていた。
言った? 直が?
私に、回も助けを求めた?
嘘だ、といたかった。そんなはずはない。私はあの子の母親だ。直が「もう嫌だ」「辞めたい」と言ったなら、どんなに鈍な親だって気づくはずだ。
私はリビングの押し入れの襖を乱暴にけた。
奥の段ボール箱から、過分の計簿と、パートのシフト管理帳、それに壁からして束ねてあった古いめくりカレンダーを引きずりした。
居の絨毯のに、類をぶちまける。
震える指で、の計簿のページをめくった。
几帳面にボールペンで記された数字の列。
『 学教 期特別講習費 万千円』
『 プレ模試受験料 千円』
『 期宿費・教材費 万千円』
『 夜代・ビタミン剤 千百円』
母子庭のギリギリの活ので、私は直のためにすべてを注ぎ込んできた。
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自分の化粧は百円ショップのものに変え、パート先の総菜で売れ残ったコロッケを持ち帰って夕飯を浮かせ、円単位で切り詰めて塾の費用を捻してきた。
「全部、あの子のためだった……」
声が漏れた。
帳の余には、当の私のメモがびっしりとき込まれていた。
『直、模試のあと元気がなさそう。カツ丼を作る』
『先から話。今が踏ん張りどころとのこと。信じる』
『気になっている。私がしっかり支えなきゃ』
その文字を追ううちに、胸の奥からたい汗が噴きしてきた。
帳のに残されたメモは、すべて「私がどうったか」「先が何と言ったか」しかなかった。
直がその、どんな顔をして、どんな声で、何を言ったのか。その記録が、どこにもたりとも残っていなかった。
付は、の。最初の学の。
カレンダーの余に、乱暴に殴りきされたさな赤ペンの印があった。
『直との話。?』
その文字を見つめた瞬、私の記憶の奥底の扉が、軋んだ音をてていた。
あのの記憶。
湯気のつ狭い台所。
夕飯のカレーを煮込みながら、私が発した何気ない言。
全の毛穴が逆つような覚に襲われ、私は帳をに落とした。
私は聞いていなかったのではない。
聞いておきながら、自分ので、あの子の声を塗りつぶしていたのだ。
窓のは、すでにみ始めていた。
え切ったのに正座したまま、私は自分の部のドアを、じっと見つめていた。