"学年五位の二浪息子" 第8話
回の沈黙
塾からの帰り、私と直は本の傘に入り、無言で歩いた。
はまり、アスファルトを叩く音がく響いていた。隣を歩く直からは、たいの匂いと、薬品のような湿布の匂いがした。肩凝りが酷いのか、歩きながら何度も首を回している。
アパートに着き、濡れたコートを脱ぐ。
直は濡れた靴を脱ぎ捨てると、械な作でそのまま自分の部へ向かおうとした。
「直」
リビングの引き戸にをかけた息子の背に、私は声をかけた。
直がを止める。振り返りはしない。
「……何?」
「もう、やめよう」
部のの換気扇の回る音だけが、やけにきく響いた。
「を受けるのは、もうやめなさい。先の特訓も、もう受けなくていい」
直が、ゆっくりと振り返った。その顔には、驚きも堵もなかった。ただ、酷くめた、の抜け落ちた目だった。
「またその話? もう願の締め切りまでヶもないんだよ。今更やめるなんて、できるわけないじゃん」
「できるわよ! 私が塾に断りを入れる。でも、定制でも、通信制でも、どこだっていい。あなたがこれ以、あんなに自分を削る必なんてないの!」
私の声は、ほとんど鳴にかった。非常階段で見た、直の怯えた横顔が脳裏に焼き付いてれなかった。
「どうして……どうして、あるいはの点で、私に言ってくれなかったの? 『もう辛い』って、『にはきたくない』って、どうして言も相談してくれなかったのよ!」
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私の叫びのような問いかけに、直は眉つかさなかった。
彼は濡れた髪を鬱陶しそうに払い、え切った目で私を真っ直ぐに見据えた。
その瞳の奥にあったのは、諦めだった。
私に対する、絶対な諦絶。
「言ったよ」
く、静かな声だった。
「え……?」
「言った。僕、お母さんにちゃんと言ったよ」
「何を……いつ言ったのよ。私は度だって、あなたからそんな……」
「回言った」
直は歩、私にづいた。その唇の端が、自嘲気にわずかに歪んだ。
「回、ちゃんと助けてって言った。でも、お母さんは回も僕の言葉を聞かなかった」
胸を、鋭利なガラスで裂かれたような衝撃がった。
「回……?」
息が止まりそうになる私を見ろしながら、直は凍りついた声で告げた。
「お母さんが忘れてるだけだよ。お母さんにとって、僕の言葉は最初から『言葉』じゃなかったんだから」