"学年五位の二浪息子" 第7話
逃げ癖という呪い
も半ばを過ぎ、夜のえ込みは層厳しさを増していた。
直は結局、先に渡された「問」の課題をこなすため、連夜まで塾の自習に通い詰めていた。
夜半。私は自転を漕ぎ、駅の雑居ビルへ向かった。夕方からり始めたたいが、アスファルトを黒く濡らしていた。
傘を本余分に持ち、ビルの階へがる。
自習のかりはまだ灯っていた。引き戸をけようとした瞬、廊の突き当たり、非常階段へと続く暗い踊りから、く抑えられた声が聞こえてきた。
「……何がなんだい、直くん」
先の声だった。私はわず、壁のにを潜めた。
ええとした踊りのコンクリートのに、直と先がっていた。
直は壁に背を預け、俯いていた。その肩は微かに震えている。
「先……僕、やっぱり、過問の英語が……どうしても内に解き切れません。より……応えがなくて……」
「解き切れないんじゃない。解くから諦めているんだ」
先の声は、静かだった。鳴るわけでも、声を荒らげるわけでもない。滑らかで、逃げのない正論。
「、願の直におがに逃げようとしたのを覚えているね? あの、お母さんに隠れて勝に調査票をき換えた、あのさだ」
臓がねがった。
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き換えたのは、直だったのか。
だが、そのの先の言葉に、私は息を呑んだ。
「あの、私が気づいて止めてやらなければ、おは今頃、ぬるま湯ので、自分の才能を腐らせていたんだよ。直くん、には種類しかいない。困難にち向かって自らの能性を証する者と、言い訳を見つけて全な所に逃げ込む凡だ」
先が歩、直に詰め寄った。
「おは凡としてきたいのか? 母子庭で、お母さんがをにして働いて、おに何を期待しているとう? おがにって、堂々と胸を張ってきていくことだろう。おがここで逃げしたら、お母さんのあの苦労は体何だったことになるんだ?」
直の細い喉が、ごくりと鳴った。
「お母さんを失望させたいのかい?」
「……いえ」
「先を裏切るのかい?」
「……ちが、います……」
「なら、音を吐くな。逃げ癖を自分で肯定するな。おには才能がある。私が保証する。だから、おのさなで余計なことを考える必はないんだ。私の言う通りに机に向かいなさい。いいね?」
先のが、直のに置かれた。慈しむように、優しく撫でる。
直の顔は見えなかった。ただ、その両拳は固く握りしめられ、全が刻みに痙攣するように震えていた。
それでも、息子のからたのは、を疑うほど従順な言葉だった。
「……はい。すみません……先の言う通りです」
操り形のように、直はくをげた。
その景を見た瞬、私の元から血の気が引いていった。
先がやっているのは、指導ではなかった。
息子の自尊を「お母さんのため」「才能のため」という美しい言葉で削り取り、自分なしでは呼吸もできないように調教しているのだ。
そして、その最も残酷な刃を直の喉元に突きつけていたのは――ならぬ「お母さんの苦労」という、私自のだった。