"学年五位の二浪息子" 第4話
線で消された
塾をたの記憶が、ほとんど定かではなかった。
夕暮れのを、私は幽霊のように歩いた。先の言葉が、ので何度も何度もリフレインしていた。
『あなたの方ではありませんでしたか?』
そうだ。私は、先にすべてを丸投げしていた。
母子庭だから。卒で、学受験のシステムなんて分からないから。「直のために最善を尽くしている母親」という体面を保つために、専である先の言葉を盾にして、考えることを放棄していたのだ。
アパートに帰り着いたのは、夜のを過ぎていた。
玄関には、直の履き古したスニーカーが転がっている。かかとが踏み潰され、で汚れていた。しい靴を買ってやる余裕すらなかったをいし、胸が締め付けられる。
直の部のドアの隙から、細いかりが漏れていた。
ノックをしようとして、を止める。からは何の物音もしなかった。
そっと引き戸を数センチだけける。
直は、机のに突っ伏して眠っていた。にはシャープペンを握ったままで、い肩が規則正しくしている。
邪を引いてしまう。そうって、私は壁にかかっていたフリースのブランケットをに取り、音を忍ばせて部に入った。
背にそっとブランケットをかける。
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その、直の元に置かれた通学用のリュックサックが、をけているのが目に入った。
底の方に、何にも折り畳まれ、くしゃくしゃになったプリントの端が見えていた。ゴミを溜め込む癖のある直をい、何気なくそれを引き抜いた。
プリントを広げた瞬、私の指先が直した。
それは、――度目の受験の直に、学と塾の両方に提することになっていた『希望調査票』のきだった。
第志望の欄に、直の震えるような字で、こうかれていた。
『県等学 普通科』
ではなかった。
直は、の点で、にきたいといていたのだ。
だが、その文字のには、黒のボールペンで、が破れんばかりの力で何度も引かれた、無惨な線が引かれていた。
線で塗りつぶされたの文字の斜めに、から無理やりねじ込むようにかれた文字。
『等学』
ボールペンのインクが、涙の跡のように滲んでいた。圧でが波打ち、裏側にまでペンの跡がくっきりと浮きている。
の余には、細かな付の計算がりきされていた。
『 あと』
『 あと』
『願締め切り』
そして、ページの最部に、乱暴に殴りきされた文字があった。
『消せ』
誰が、この線を引かせたのか。
先が「限界を試せ」
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と命じたからなのか?
それとも、直自が恐怖に駆られて自ら塗りつぶしたのか?
ふと、机のの壁に貼られたカレンダーに線が移った。
度目の挑戦となる今の受験。赤いマジックで太い丸がつけられた付があった。
『 最終願提締切』
今の付から逆算する。
あと、。
直が眠る静かな部で、私は線で消された文字を指先でなぞった。
この子は、本当に自分の志で「み」を目指しているのだろうか。それとも、私と先が作りげた見えない檻ので、息を引き取ろうとしているのだろうか。
「……う……ん……」
直がさく寝返りを打った。その眉には、眠っているすら解けない、い苦悩の皺が刻まれていた。
あと。
この子の歳のを、もう度と、誰かの嘘で終わらせるわけにはいかなかった。