"学年五位の二浪息子" 第3話
黄い目標カード
翌の午、私は仕事を退し、駅の雑居ビルに向かっていた。
直にあれほど止められたにもかかわらず、私のは止まらなかった。息子のあの怯えた目を見せられて、平気でいられる親がどこにいるだろうか。
雑居ビルの階にある「学教」は、予備のような華やかさはないものの、難関への格実績を掲げ、元ではるぞる個塾だった。
いアルミのドアを押してに入ると、誰もいない教の奥から、聞き慣れた穏やかな声がした。
「おや、佐伯さん。面談の約束は来週だったはずですが」
カーディガンを羽織った先が、鏡をしながら指導席からちがった。代半ばの、髪交じりの落ち着いた貌。いつ見ても性で、誠実そのものの佇まいだった。
「先、突然申し訳ありません。どうしても、今すぐ確認したいことがありまして」
私は息をえながら、カバンから取りした枚の用を、面談用のテーブルのに滑らせた。
昨の夕方、森脇先にをげてコピーしてもらった、直の学の模試総結果通だ。
「これをご覧ください」
先は鏡をかけ直し、に線を落とした。
揺のかけらもなかった。眉ひとつかさず、ただ静かに、印字された偏差値の数字を見つめている。
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「……森脇先のところへかれましたか」
「先。直は、このすでに、県はおろか、県内トップクラスのに受かるだけの実力がありました。それなのに、なぜ私には『基礎が絶望だ』と仰ったのですか? なぜ、格率がパーセントにも満たないだけを受験させ続けたのですか?」
私の声は、抑えようとしても震えた。分の謝、削られた眠、息子のやつれた顔が、馬灯のようにを駆け巡る。
「私の無につけ込んで、息子を塾の実績作りのために利用したのですか? 授業料をむしり取るために、わざと浪させたのですか!?」
教のに、私の鋭い声が響き渡った。
先はゆっくりと顔をげた。その表には、やましさも、りもなかった。あるのは、物分かりの悪い子供を諭すような、い慈とれみだけだった。
「佐伯さん。私がそのような浅ましい目で直くんを預かってきたと、本気でおいですか」
「じゃあ、この数字は何なんですか!」
先は静かに息を吐くと、席をった。壁際に並ぶスチールキャビネットのに歩み寄り、番の引きしをけた。
取りしたのは、さな透のクリアファイルだった。には、何枚もの褪せた報カードが綴られている。
先はそのから、角が丸くなった枚の黄いカードを抜き取り、私のに置いた。
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「これに見覚えはありますか?」
カードの真んに、学特の、し角ばった直の跡があった。
『自分の限界がどこまでか、試してみたい(格)』
胸が、どくりとねた。
「直くんが学でここに来た、彼は自分の名にすら自信が持てないような、のいでした」
先は、懐かしむように目を細めた。
「学のテストは平均点そこそこ。授業にを挙げることもない。誰も彼の才能に気づいていませんでした。ですが、私は見抜いた。彼の考のさ、数式を解く際の見事な直。彼は本物の原だったのです」
先はを乗りし、私の目を真っ直ぐに見据えた。
「私が放課、無償でどれだけのを彼に注いできたか、お母さんならごじのはずだ。彼が初めて模試で学桁に入った、このカードを嬉しそうにいて持ってきたの顔を、私は今でも覚えています」
「それは……謝しています。でも、それとこれとは話が……」
「話は同じですよ」
先は、きっぱりと言い放った。
「彼はを目指すと自分で決めた。度目の失敗の、周囲は妥協して全なを選ばせようとしました。森脇先もそうだ。凡庸な教師は、すぐに傷つかない全なレールを用したがる。だが、直くんの才能は、そんなぬるま湯で消費されていいものじゃない。
本物のみに届く翼を持ちながら、空で満させることこそが、教育者の罪だとはわれませんか?」
「でも、直はも苦しんで……!」
「苦しまずにに入る栄などありません」
先は、テーブルのに置かれた模試の結果通を、指先で軽やかに弾いた。
「それにね、佐伯さん。の、度目の格が決まった、あなたは何と仰いましたか?」
私は言葉を詰まらせた。
「『先、私には受験のことは分かりません。先が直のためになると信じるを、どうか教えてやってください』……そう言って、私のにをげたのは、お母さん、あなたの方ではありませんでしたか?」
正論という名の刃が、私の臓を正確に貫いた。
反論の言葉が、喉の奥で刻みに震え、音にならずに消えていく。
「私は直くんを信じているからこそ、妥協を許さないのです。当初、彼の未来を私に託すと決めたのは、ならぬあなたですよ」
先の穏やかな笑顔が、教卓の蛍灯のいを浴びて、たく張り付いていた。