"学年五位の二浪息子" 第1話
職員の朱き
の職員は、湿ったチョークと使い古されたストーブの匂いが充満していた。
卒業式を終えたばかりの舎はがらんとしていて、廊を歩く自分のパンプスの音だけが、やけに甲く響いていた。
「佐伯さん、わざわざすみませんね。調査の再発、こちらで続きしておきましたから」
元担任の森脇先が、事務机のの類のから通の角形号封筒を取りした。
息子の直がこの学を卒業してから、すでに丸が経っている。同級たちはもう、のを迎えようとしていた。
「いえ、こちらこそ無理を言って申し訳ありません。来度の……度目の願に必な類でして」
私がをげると、森脇先は鏡の奥の眉をわずかに寄せ、痛ましそうな目を向けた。
「直くん、今もダメでしたか」
「……ええ。の推薦も般も、届きませんでした。私の力です」
はこの域で誰もがる、や京への学実績を誇る最難関私だ。
母子庭のがにとって、その学費と受験料は決して軽いものではない。それでも私は、直の「才能」を信じて、パートのシフトを限界まで増やし、貯を削り続けてきた。
森脇先は封筒を持ったまま、しばらく何かをためらうように指先をかしていた。
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そして、隣の空いているパイプ子を引いた。
「佐伯さん、しだけ座っていただけますか」
「はい?」
「ずっと気になっていたんです。も、昨も」
先は引きしから、褪せた青いファイルを引っ張りした。直の学が籍していた当の、実力テストと県内統模試の記録簿だった。
ページがめくられ、直の名が記された欄が指差される。そこには、赤インクで几帳面な数字が並んでいた。
「直くんはね、のの段階で、学百、常に番以内に入っていたんですよ」
私は先の顔と、その数字を交互に見つめた。がすぐにはに入ってこなかった。
「番……ですか? でも、塾の先からは、基礎がまったく追いついていないと伺っていました。模試の判定もずっとDかEで、格圏には到底及ばないと」
「誰がそんなことを?」
森脇先の声が、急にくなった。
「学教の……の先です。学の頃から、ずっと直を個指導してくださっていて」
「冗談じゃない」
温な森脇先が、珍しく吐き捨てるように言った。先はファイルの朱きを、爪の先でく叩いた。
「これを見てください。の県統模試、偏差値です。県ならA判定、トップ格も狙える位置にいました。私の特待枠だって、どこのでも選べたはずです。
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のような超難関本に絞るなんて無謀な真似をせず、順当に願していれば、直くんは、確実にどこかのの制を着ていましたよ」
ので、キーンという鋭い鳴りがした。
偏差値。
A判定。
トップ格。
慣れない単語が、たいのように私の胸の奥へ流れ込んでくる。
「でも……先は、直は本番に極端にいタイプだから、模試の点数は当てにならないと……。もっとを目指す胆力をつけなければ、どこへっても通用しないと、そう仰って……」
「佐伯さん」
森脇先は痛切な声で、私の言葉を遮った。
「受験の模試データは、嘘をつきません。直くんは落ちるような学力じゃなかった。学側は当、何度もそう言しようとしました。ですが、者面談のたびに、あなたが仰ったんですよ。『指導はすべて先にお任せしていますから』と」
指先がたくなっていくのが分かった。
の。
の。
格通を握りしめて泣き崩れる私ので、先は々とをげてくれた。
『申し訳ありません、お母さん。私の見通しが甘かった。直くんの繊細なメンタルをケアしきれなかった私の責任です』
そう言って涙ぐみ、目の謝を半額に減免してまで、直を引き受けてくれた。
『直くんはこんなところで終わる器じゃない。
私にもう預けてください。彼を必ず、相応しいみへ連れていきますから』
あの誠実な横顔。
夜まで直の点補に付きってくれた、恩のような。
そのすべてが、森脇先の目のにある赤インクの数字と、音をてて衝突していた。
封筒を受け取る私のは、微かに震えていた。