"八年分の源泉徴収票" 第16話
最の与細
桜のが散り、青葉が目に眩しいの終わり。
母の半の引き継ぎ契約が満する、最のがやってきた。
システムはから順調に稼働を始め、の現でもタブレット端末を使った図面検索が完全に定着していた。
あの松岡業の特注部品も、システムで過の修正履歴が完全に化され、度と違いが起きない仕組みがった。
午半。
私はいつも通り、事務所のの駐で待っていた。
だが、になっても母はりてこなかった。
しだけ配になり、私はのドアをけてにた。
階段をがろうとしたとき、階のドアがき、から拍の音が聞こえてきた。
「雅子さん、本当に、本当にありがとうございました!」
葵さんの、泣きしそうな声が響いた。
「雅子さんが台帳の隅っこにいてくださってたメモのおかげで、古いお客さんの癖が全部わかりました。私、絶対にこのデータを切に守っていきますから!」
「葵さん、あんたは物覚えがいいからだよ。……これからは、パソコンが全部やってくれる。私の古いは、もうお役御免だ」
母の穏やかな笑い声が聞こえた。
やがて、事務所の扉が静かにき、修司と母が姿を現した。
修司の両には、束も記品もなかった。
ただ、通のい封筒だけが握られていた。
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事務所の入りの踊りで、修司が母に向き直り、々とをげた。
「片岡雅子殿。のきにわたり、当社の資料管理およびシステム移業務に尽力していただき、より謝申しげます」
修司はい封筒を、両で母に差しした。
「今分の与細と、退職の続き類です。ご確認ください」
母は杖を壁にてかけ、バッグから老鏡を取りしてに乗せた。
封筒からつ折りの用を取りし、指先で丁寧に広げる。
支額、万千円。
雇用保険料の控除、所得税の源泉徴収。
差引支額の欄に印字された数字を、母は差し指で文字ずつなぞった。
そこには、族のけも、同の端数もしなかった。
母が自分のとを使って稼ぎした、正真正銘の労働の対価が記されていた。
「……確かに、受け取りました」
母は鏡をし、用を丁寧につ折りにして胸のポケットにしまった。
そして、首からげていた青いストラップの入館証をし、両で修司のに返却した。
プラスチックのカードが、さな音をてて夫ののひらに落ちる。
「お世話になりました、社」
母がく、をげた。
修司もまた、同じさでをげ返した。
のには、に及ぶ共謀の罪悪も、隠し事のわだかまりも、もう残っていなかった。
の経営者と、の従業員が、対等に結んだ契約を、誇りく完させた瞬だった。
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母が階段をゆっくりとりてきた。
には、私物資材を入れていたさな袋がつあるだけだった。
私が助席のドアをけると、母は静かに乗り込んできた。
シートベルトをカチリと締め、母は窓のを見げた。
「恭子」
「ん?」
「どうしてにがってこなかったんだい? 修司さんや葵さんに、最くらい挨拶すればよかったのに」
私はエンジンをかけ、バックミラーで方を確認しながら言った。
「ううん。あそこは、お母さんの職だから。私は部者だもの」
母は驚いたように私を見つめた。
そして、ふっと目元を緩め、声をさずにさく笑った。
「そうだね。私の職だったね」
母は膝のの袋をおしそうに撫でた。
「もう、私の会社じゃないけれど……でも、確かに私の居所だったよ」
は田区の町のを抜け、環へと流していった。
に照らされた母の横顔は、病院のベッドで見せたあの怯え切った表とは、まるで別のようにれやかだった。