"八年分の源泉徴収票" 第14話
炬燵のの半契約
半ば、母は無事に退院した。
まだを引きずり、内でもシルバーカーが必な状態だったが、慣れ親しんだ練馬の平に戻ると、その表には目に見えて気が戻っていた。
退院から目の曜、私と修司は母のを訪れた。
居の炬燵の周りに、で座った。
湯呑みからちるほうじ茶の湯気を見つめながら、私は自分の膝のでぎゅっと両を握りしめていた。
爪がのひらにい込み、鈍い痛みがる。
以の私なら、すぐにをいていただろう。
「お母さん、退院できてよかったね。これからはでゆっくり、何も配しないで過ごしてね」と。
相の逃げを優しさで塞ぎ、自分の望む結論へと誘導する言葉を、無識に並べてていたはずだ。
だが、私は黙った。
唇を噛み締め、修司がをくのを待った。
修司はビジネスバッグから、冊のいファイルを取りした。
会社の決算と、しく導入する受発注システムのパンフレットだった。
「お義母さん」
修司は背筋を伸ばし、仕事の商談をするときと同じ真摯な声で言った。
「うちの会社、来のからしい基幹システムに完全移します。昭の図面も、きの顧客台帳も、全部スキャンしてクラウドに保することになりました」
母は湯呑みを両で包んだまま、かなかった。
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老鏡の奥の瞳が、テーブルののパンフレットをじっと見つめている。
「システムが稼働すれば、検索キーをつ叩くだけで、の図面番号も過の修正履歴も、誰でも秒で呼びせるようになります。……つまり、の台帳を作業でめくる仕事は、完全にになります」
酷なまでの事実の提示だった。
族としての甘えも、義理の息子としてのけも交えない、ひとりの経営者としての通告。
母のい唇が、微かに引き結ばれた。
部のに、計の秒針の音だけがカチカチと響く。
「……そうかい」
母は静かに息を吐いた。
「もう、私の仕事はないんだね」
その声には、病院で取り乱したような壮はなかった。覚悟を決めたの、く澄んだ響きがあった。
修司は首を横に振った。
「いいえ。半だけ、お義母さんにしかできない仕事があります」
母がゆっくりと顔をげた。
「きの台帳には、過の職たちが残した略称や、きのメモが無数にあります。スキャン業者には、それが何をしているのか判別できません。このメモのを解読して、葵さんに正しく引き継ぎ、データとして入力する作業が、どうしても半必なんです」
修司はファイルを母のに差しした。
「週に、曜の午だけ、。期は来のシステム本稼働までの半です。
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それ以の契約更はありません。これが、会社からお義母さんへのお願いです」
母は差しされた類を見つめた。
数分、誰も言葉を発しなかった。
やがて母は、炬燵からをし、背筋をまっすぐに伸ばした。
「条件があるよ、修司さん」
「はい」
「お料は、半分にしておくれ。に万千円だ。しか働かないに、万円も払うのは筋が通らない。それから、交通費の実費以は、円も余計なおは受け取らないよ」
母の目は、かつて帳簿を守り続けてきた職業のそれに戻っていた。
「それともうつ。葵さんへの引き継ぎは、私が直接やる。社のあなたを通さず、葵さんと私ので、全部のページを突きわせる。それでいいかい?」
「……わかりました。それで契約を作り直します」
修司がくをげた。
私は横で、溢れそうになる涙を必に堪えていた。
母は守られる者としてではなく、自分のでち、自分ので引き際を決めようとしていた。