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"八年分の源泉徴収票" 第10話

優しさという名の嘘

翌朝、私は始発にいに乗り、再びカタオカ精の事務所を訪れた。

昨夜、修司は松岡業の専務に座同然で謝罪し、急ピッチで材料を配して自社の持ちしで作り直すことで、なんとか契約解除だけは免れたという。

事務所には、徹夜けの修司のい溜息と、疲弊しきった葵さんのキーボードを叩く音だけが響いていた。

修司が現の職たちにをげにくため部をたあと、私は葵さんの机のにった。

「葵さん。昨は取り乱してごめんなさい」

「いえ……私の方こそ、あんな取り乱した話をしてしまって、奥さんにも嫌ないを……」

葵さんは充血した目をこすりながら、申し訳なさそうにをげた。

「葵さん、つだけ教えてほしいの」

私は母のさな机を見つめながら言った。

「母は……いつから違いが増えていたの?」

葵さんは線を落とし、机のの類の端を指でいじった。い沈黙のあと、いをいた。

「……のくらいからです」

「そんなにから……?」

「最初は、ちょっとした付のズレとか、納品先の支名のき違い程度でした。でも、だんだん桁数をき違えたり、同じ注文をにチェックしたりすることが増えてきて……」

「どうして、そのに言ってくれなかったの? 修司にも、私にも」

「言えなかったんです」

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葵さんは泣きそうな顔で私を見げた。

「社に相談したんです。雅子さんがすごく疲れていらっしゃるみたいだし、確認作業をパソコンに移させてほしいって。そうしたら……社が言ったんです」

葵さんの言葉が、私のにたく突き刺さる。

「『お義母さんには絶対に言うな』って。『雅子さんが帰ったあと、俺とおで全部ダブルチェックするから、雅子さんのでは何事もなかったように振るってくれ』って……」

の奥が、じんじんと痺れるように痛んだ。

「社は……夜遅くにで事務所に残って、雅子さんが照した類を全部やり直してました。雅子さんが違えた箇所を、社が夜にこっそりき直して、翌朝、雅子さんの机のに何わぬ顔で戻してたんです。『お義母さん、昨も完璧でしたよ』って言いながら……」

「修司が……?」

「社は、雅子さんのプライドを守りたかったんだといます。『お義母さんから仕事を取りげたら、きる気力を失ってしまう』って、いつも配してて……でも、私にはそれが、すごく苦しくて」

葵さんの声が震えていた。

「雅子さんは、自分がで全部完璧にこなしているとい込んでいました。だから、私が伝おうとすると『葵さんはパソコンの仕事だけしてればいいのよ』って、台帳を抱え込んでしまって……。今回の松岡業の件も、入院のドタバタで、社が夜の再チェックをできないまま現に回っちゃったから起きたんです」

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元が崩れていくような覚だった。

母を守っていたのは、母自の能力ではなかった。

夫がでをかぶり、のをかけ、嘘をつき続けることによって維持されていた、砂のだったのだ。

そのの午、私は着替えの洗濯物を届けに病院へ向かった。

ナースステーションのの自販で温かいお茶を買おうとしたとき、病棟の廊の角から、修司のい声が聞こえてきた。

「……だから、お義母さんには内緒でめるしかないんだよ」

角のに回り込むと、修司が公衆話の脇で、誰かと携帯で話していた。

「システムの導入をに倒しする。の台帳は全部スキャンして業者に突っ込ませるよ。お義母さんが退院してくる頃には、もうきの帳簿なんてどこにもない状態にしておく。そうすれば……『代の流れだから仕方ない』って、お義母さんを傷つけずに辞めてもらえるだろ」

修司はそう言って、くため息をついた。

私はを踏みそうとして、凍りついた。

廊の反対側。

リハビリ用の歩器にすがりつき、点滴棒を引いた母が、そこにっていた。

角のから、修司の背を、見つめていた。

母の顔は、幽霊のようにかった。

自分が信じていた「必とされる自分」が、ただの優しい嘘のに成りっていたことをってしまったの顔だった。

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