"八年分の源泉徴収票" 第8話
度の減申し
「恭子、おってやつは……!」
庭に残された修司が、これまでに見たこともない形相で私の腕を掴んだ。
指が肉にい込み、痛みに顔をしかめる私を、修司は非常階段の踊りへと引きずり込んだ。
い鉄の扉がバタンと閉まり、たいコンクリートの空にの荒い息遣いだけが反響する。
「痛い! 何するのよ!」
「おは本当に……何も分かってないんだな!」
修司はりで声を震わせていた。普段、声を荒らげることなど度もなかった夫が、拳を握りしめて私を睨みつけている。
「何が『そんなに働いてないのに』だ! お、お義母さんがどんないでうちの会社に来てたとってるんだ!」
「だって……事実じゃない! に回話するだけで万円なんて、どう考えたってただの施しでしょ!? 族だからって、会社のおをそんなに使うのは――」
「施しなもんか!!」
修司の声が、階段に激しくこだました。
「お義母さんが、タダでおをもらうようなに見えるか!? この、お義母さんが俺のところに何回をげに来たか、おはってるのか!?」
「……え?」
「回だよ」
修司は指を本突きした。
「こののに、お義母さんは回、自分から『料をげてくれ』って言ってきたんだ」
臓がどくりとねた。
「目、し膝を悪くして勤が分遅れるようになった、『私の作業スピードが落ちたから、を百円げてください』ってを添えてきた。
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目、目の調子が悪くなって老鏡を調したも、『確認にがかかるようになったから、を万円にしてください』って言ってきた」
修司の目が、悔しさとけなさで潤んでいた。
「その度に俺が断ったんだよ! 『お義母さん、あなたが作ってくれた過分の顧客台帳のおかげで、うちの会社はどれだけ特注の注文を拾えてるとってるんですか。万円でもすぎるくらいなんです』って、俺がをげて、お願いだから受け取ってくださいって頼み込んできたんだ!」
私は言葉を失い、階段のすりを握りしめた。
「お義母さんはな、円だってろめたいおは受け取らなかった。自分が会社にどれだけの利益をもたらしているか、誰よりもシビアに計算して、自分が役にたなくなったとったら、いつでもを引く覚悟で働いてたんだよ! それを……『そんなに働いてないのに』だと? おが言ったのはな、お義母さんののプライドを、どぶに捨てろって言ったのと同じなんだよ!」
を鈍器で殴られたような衝撃だった。
私は、母を「養われるべき者」としてしか見ていなかった。
母がひとりの労働者として、自分の矜持を保つためにどれほど必に、自分を律してあのさな机に向かっていたのか、像すらしていなかった。
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その、修司のポケットのでスマートフォンがけたたましく鳴り響いた。
修司は舌打ちしながら画面を見て、表を張らせた。の葵さんからだった。
「もしもし、葵さんか? 図面は見つかっ――」
『社!!』
受話器の向こうから、葵さんの絶叫と泣き声が漏れ聞こえてきた。階段の静寂のに、その痛な声がはっきりと響いた。
『変なことになりました! 先週、雅子さんが入院する直に照してくれた松岡業さんの型図面……番号が違ってました!』
修司の顔から、気に血の気が引いた。
「……何だって?」
『図面の枝番が、きの台帳と現物でテレコになってて……がその違った番号のまま特注の削りしに入っちゃったんです! さっき松岡業の専務から話があって、全部使い物にならないって……! 数百万の損害賠償と、取引止を言い渡されました……!』
「そんな馬鹿な……お義母さんが番号を違えるはずが……」
『実は……!』
葵さんは泣きじゃくりながら、今まで隠していた事実を吐きした。
『実は雅子さん、ここ半くらい、数字のき違いがすごく増えてたんです! 私、何度も「台帳をパソコンに入れて、ダブルチェックできるようにしましょう」ってお願いしたんです! でも、雅子さんが……「この台帳は私にしか分からないから、触らないで」って……絶対に帳簿を渡してくれなくて……!』
鉄の扉の向こうから吹き込むたい隙が、私の頬を叩いた。
完璧だったはずの母の仕事。
誰にも渡したくなかった、母の最の居所。
その執着が、修司の会社を破滅の淵へと追い詰めていた。