"八年分の源泉徴収票" 第7話
そんなに働いてないのに
面談をた修司の背は、ひどくさく見えた。
私たちは夕方の暗い病院の庭のベンチに座っていた。がたく、吹き溜まりの落ち葉をカサカサと鳴らしている。
修司は両で顔を覆い、く息を吐きした。
「……悪かった。俺が焦りすぎてた」
「分かってくれたならいいのよ」
私はしトゲのある声で言った。
「お母さんはもうすぐ歳なのよ。では昔の仕事ができるつもりでも、体は追いつかないの。あなたが会社に居所を作ってあげてたつもりかもしれないけど、結果にお母さんの寿命を縮めてたらがないじゃない」
修司は顔をげ、赤くなった目で私を見た。
「でも、いきなりゼロにするのは、お義母さんにとって酷すぎるんだ」
「え?」
「に来るなって言ったら、お義母さんはまた、みたいにに閉じこもって、自分が誰の役にもたないだってい詰める。それだけは避けたかったんだよ」
修司は膝ので拳を握りしめ、絞りすように提案してきた。
「こうしよう。もうには来てもらわない。勤は完全になしだ。その代わり、に回か回、どうしても昔の取引先のことで分からないことがあっただけ、俺か葵さんが話でお義母さんに相談する。分かそこら、昔の帳簿の記憶を教えてもらうだけだ」
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「話で相談……?」
「ああ。名目には『特別相談役』みたいな形にしておく。で、料は今まで通り、万円を座に振り込み続ける。それならお義母さんの体にも負担はかからないし、会社と繋がってるっていう誇りも守れるだろ?」
修司は、それが完璧な妥協案であるかのように、すがるような目で私を見た。
妻への配慮と、義母へのけを両させた、優しい夫の優しい解決策。
だが、私のには、その言葉がひどく自然に響いた。
「……待って」
私は眉をひそめた。
「に回か回、話で昔の話を聞くだけでしょ? 分か分、い話をする程度よね」
「ああ」
「そんなに働いてないのに、今までと同じお料をすの?」
自分でも驚くほど、素朴な疑問としてその言葉がから転がりた。
悪があったわけではない。ただ、パート勤めをして、千百円ののために必に働いている私の銭覚からすれば、に分の話で万円が支払われるというのは、完全に「働いた対価」ではなく「お遣いの施し」にしかえなかったのだ。
その瞬、ベンチのろから、カサリと乾いた音がした。
振り返ると、リハビリ用の歩器に両を乗せ、点滴棒を引いた母が、そこにっていた。
夕方の暗がりの、母はいつからそこにいたのだろうか。
し散歩をしてくると護師に言って、庭にてきていたらしかった。
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母の顔から、すべての表が抜け落ちていた。
血の気の引いた唇が、微かに震えている。
「お、お母さん……」
私がちがろうとした瞬、母はすっと線を逸らした。
その瞳の奥にあったのは、りではなかった。
ただ、どこまでも徹で、プライドを々に踏みにじられただけが浮かべる、い絶望だった。
「……そうね」
母は、の音に掻き消されそうな、さな声で言った。
「恭子の言う通りだわ。そんなに働いてないに、おなんてせるわけがないものね」
「お母さん、違うの、そういうじゃなくて――」
私が弁しようと伸ばしたを、母は歩器の向きを変えることで、静かに、完全に拒絶した。
「修司さん、今まで迷惑をかけて悪かったね。もう、話もいらないから」
母は度も振り返ることなく、カタカタと歩器の輪を軋ませながら、病院の自ドアの向こうへと消えていった。