"八年分の源泉徴収票" 第6話
病に持ち込まれた伝票
翌週の曜、カタオカ精のに激震がった。
静岡にあるの産業械メーカーから、緊急の特注部品の図面照会が入ったのだ。
に納品した型研削盤の、特殊なクラッチ板の再製作依頼。現では産されていない特殊鋼の配と、当の図面番号を今に特定しなければ、社に相見積もりを取られての座を失う危だった。
「社、図面の保管番号がどうしても分からないんです!」
事務の葵さんが、半泣きで修司に話をかけてきた。
当、その図面をの台帳から探しし、きの索引を作っていたのは、すべて雅子だった。
昼過ぎ、私が母の着替えを持って病に入った瞬、目のの景に息が止まった。
母のベッドの式テーブルのに、青い伝票と分い布張りのファイルが何冊も広げられていた。
その横で、修司が額に汗を浮かべながら、元のバインダーと格闘している。
母はのに老鏡をずり落ちそうに乗せ、骨折したをベッドに投げしたまま、青い顔で鉛を握りしめていた。
「違うよ、修司さん。その番号は平成に入ってからの改定版だ。昭の分は、緑のインデックスの『特注・本』の棚の、番目の引きしに入ってるはずだよ」
「あった! これか……!」
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のに流れる空気は、庭のそれではなく、完全に緊迫した職のそれだった。
「ちょっと! 何やってるの!?」
私の叫び声に、が同にびくりと肩をねさせた。
私は駆け寄り、母のテーブルのに広げられた伝票の束を、乱暴に両で掻き集めた。
「恭子、やめろ! 今事なところなんだ!」
修司が止めに入ろうとするが、私のりは沸点に達していた。
「事なところって何よ! ここ、病院よ!? お母さんは骨折して入院してるの! なんで病に仕事の類を持ち込んでるのよ! 鬼じゃないの!?」
「私が、持ってきてくれって頼んだんだよ」
母が掠れた声で言った。
見ると、母の額には脂汗がびっしりと浮き、鉛を握るが微かに痙攣していた。痛む腰を庇いながら、無理な体勢で何も類をめくっていたのはらかだった。
「お母さんは黙ってて! 修司、あんた正気? 会社のトラブルに歳の義母を巻き込むなんて、経営者としても夫としても失格よ!」
「失格で結構だ!」
普段は温な修司が、鳴り返した。
「この注文を落としたら、現の員たちの来の料が払えなくなるかもしれないんだよ! お義母さんはそれをってて、力を貸してくれようとしてるんだ!」
「だからって――」
「失礼します。々よろしいですか」
ややかな声がして、病のカーテンが引かれた。
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主治医の佐野医師が、カルテを抱えた護師を従えてっていた。
医師の線が、ベッドのに散乱する伝票と、りで顔を潮させている私たち、そして脂汗を流してさくなっている母へと向けられた。
「ご族の皆さん、廊へていただけますか」
医師の宣告は、容赦のないものだった。
ナースステーションの脇の面談で、レントゲン写真がバックライトに透かされた。
「雅子さんの背骨は、度の骨粗しょう症によって変形性脊椎症がんでいます。今回の腿骨の亀裂骨折も、骨の脆化が根本な原因です」
佐野医師は淡々と、しかし厳しい調で言った。
「ベッドので座り続け、を向いて類をめくるような作業は絶対にやめてください。患部に余計な負荷がかかり、骨折がずれれば、即座に関節の術になります。そうなれば、度と元のようには歩けなくなりますよ」
「……先、仕事はもう無理でしょうか」
私の隣で、修司が消え入りそうな声で尋ねた。
「論です」
医師は即答した。
「歳というご齢を甘く見ないでください。静を保ち、リハビリに専すること。それが今の雅子さんの唯の『仕事』です」
私は修司の横顔を見つめた。
ほら見なさい、と言わんばかりの優越と、それ以に、母が本当に「壊れてしまいそうな老」
なのだという酷な現実に、背筋が寒くなっていた。