"八年分の源泉徴収票" 第5話
良かれとってかけた話
病をたあとも、母のえ切った差しが網膜に焼き付いてれなかった。
「ほらね、やっぱりそう言うじゃない」
あの嘲笑うような、すべてを諦めたような声。
実の娘に対して向ける顔ではなかった。まるで、自分の陣を荒らしに来た敵を追い払うときの顔だった。
りと悔しさで悸が収まらないまま、私は夕暮れのを歩いて母の平へ戻った。
台所のかりをつけ、やかんをにかける。お茶を淹れるまで、けなさでさく震えていた。
玄関の引き戸がガラガラとき、修司が入ってきた。
私の携帯が繋がらないので、病院からこちらへ回ってきたのだという。
「……お義母さんに会ったのか」
修司は居の畳にそうに腰をろし、ネクタイをした。
「会ったわよ。葵さんのことも、全部聞いた」
私は夫のにたい麦茶のグラスを叩きつけるように置いた。
「お母さん、なんて言ったとう? 『あんたに言ったら絶対に辞めさせるから黙ってた』って。まるで私が、お母さんのきがいを奪う悪者みたいじゃない! 私、何をしてきたの? 毎週ここに来て、掃除して、ご飯作って、病院の付き添いして……全部、お母さんのためをってやってきたことよ!」
叫ぶ私を、修司は静かに見つめていた。その瞳には、反論というより、い諦めとれみが滲んでいた。
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「恭子。お、のこと、本当に覚えてないのか?」
「?」
「お義母さんが、所の公民館で図理のボランティアをやってただろ。父さんがくなって、に引きこもりがちだったお義母さんが、ようやく見つけてきたの居所だったやつだ」
記憶の糸を繰り寄せる。
確かに、そんなことがあった。週に回、所のさな区センターで、古い図カードの理や寄贈本の仕分けをしていた期があったはずだ。
「あれが、どうかしたの?」
「お、あのボランティアをどうやって終わらせたか、忘れたのか」
修司のい声に、胸の奥がチクリと痛んだ。
「……終わらせたって、そんな言い方しないでよ。お母さん、あの頃ちょうど腰椎ヘルニアをやって、台所につのも辛そうにしてたの。それなのにい本を運んだり、ずっとを向いて作業したりしてるから……」
「だからお、公民館の館に直接話しただろ」
修司の言葉に、私は息を呑んだ。
「『母は腰が悪く、齢でご迷惑をおかけするわけにはいかないので、辞めさせます』って。お義母さんに言の相談もなく、おが勝に話して、ボランティアの登録を抹消したんだ」
「それは……!」
言葉に詰まる私を、修司はまっすぐに見据えた。
「次の週、公民館にったお義母さんは、受付で『娘さんから連絡をいただきましたので、もう丈夫ですよ。
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今までありがとうございました』って言われたんだそうだ。入で々とをげられて、そのまま帰ってきた」
喉の奥がカラカラに乾いていくのがわかった。
「おは良かれとってやったんだよな。親いの、優しい娘として。でもお義母さんにとっては、自分が社会と繋がっていた最の細い糸を、娘のでぷつりと切られた瞬だったんだよ」
修司はちがり、茶箪笥の引きしから冊の古い学ノートを取りした。
母の几帳面な字でかれた、の計簿兼記帳だった。
パラパラとページがめくられ、私の目のに差しされる。
の初、赤いボールペンで、ぽつんとだけかれていた。
『今で公民館は終わり。恭子が私の体を配して話してくれたそうだ。ありがたいことだ。もう、誰にも迷惑はかけられない』
「ありがたいことだ」という文字のに、乾いて波打ったような、微かな滲みがあった。
「あの直だよ」
修司が静かに言った。
「お義母さんが、うちのを訪ねてきたのは。『どんな雑用でもいい、私にできる仕事はないだろうか』って。そして、『恭子には、命に代えても秘密にしてほしい』って言ったんだ」
私はノートを見つめたまま、指先ひとつかせなくなっていた。