みかん小説
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"八年分の源泉徴収票" 第4話

どうせ止めさせるんでしょ

形科病棟の部は、昼がりの静けさに包まれていた。

カーテンをけると、窓際のベッドで母が背を丸め、文庫本を読んでいた。

ギプスで固定されたをベッドのに投げし、先に老鏡を乗せている。

私が入ってきた音に気づくと、母は本を伏せ、いつもの穏やかな顔で微笑んだ。

「あら、恭子。今も来てくれたのかい。忙しいのにいいのに」

その声を聞いた瞬、胸の奥で何かが爆発しそうになった。

私はパイプ子を引き、母のベッドの真横に座った。

息をえ、鞄から枚のを取りす。

昨夜、母のから持ち帰った源泉徴収票だ。

それを、ベッドのにねげられた式のテーブルに、音をてて置いた。

母の線が、のに落ちた。

瞬だけ、母の肩がわずかに張ったのを私は見逃さなかった。

だが母は取り乱すこともなく、ただ鏡の奥の目を静かに細めた。

「……見つけたんだね」

「見つけたわよ」

私の声は、どうしてもくなった。

「にもってきた。葵さんっていう事務のに、机も見せてもらった。……も、あそこで働いてたの?」

母は答えない。ただ、膝ので自分の節くれだった指をねわせている。

「どうしておを隠してたの? おに困ってたの? 言ってくれれば、私だって修司だって、いくらでも仕送りしたのに! なんでよりによって、修司の会社でパートなんてしてたのよ!」

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病に私の声が響き、隣のベッドのカーテンの奥で擦れの音がした。

私は声を落としたが、の量は抑えきれなかった。

「修司から聞いたわ。『恭子には絶対に言うな』って、お母さんが頼んだんでしょう? どうして? なんで実の娘の私をのけ者にして、で秘密にしてたの? 私、そんなに信用できない?」

私は泣きそうだった。

裏切られたしさと、隠し事をされていた屈辱で、喉の奥が引き攣っていた。

母はねていたをほどき、ゆっくりと顔をげた。

そこに浮かんでいたのは、申し訳なさそうなでも、怯えのでもなかった。

ただ、どこまでもたく澄んだ、諦めのような表だった。

「教えたら」

母は静かに、けれど驚くほどはっきりとした声で言った。

「あんたが、絶対に辞めさせるからよ」

息が止まりそうになった。

「な……当たりじゃない!」

私はわずのめりになった。

「歳よ!? 腰だって骨もくなってて、血圧の薬もんでて! そんな体で満員に乗って町にって……もし途で倒れたらどうするの? 今だってそうじゃない、現にこうして転んで入院してるじゃないの!」

まくしたてる私の言葉を、母は遮りもせず、ただ静かに聞いていた。

私の言葉が途切れるのを待っていたかのように。

「ほらね」

母は、さく笑った。

その目には、いしみと、徹な確信が宿っていた。

「やっぱり、そう言うじゃない」

私は言葉を失った。

母のその目は、すべてを見透かしていた。

私がることも、体を配して正論を振りかざすことも、に私がしたことと同じように、母からその所を取りげようとすることも。

母はずっとから、私がこう叫ぶことをっていたのだ。

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