"八年分の源泉徴収票" 第1話
茶封筒のの源泉徴収票
母が玄関のがり框で滑って転んだのは、のののことだった。
幸い腿骨の亀裂骨折で済み、術は免れたものの、全治ヶの入院となった。歳という齢を考えれば、寝たきりにならなかっただけでも奇跡にいと医師は言った。
私は練馬にある母の平へ、入院に必な着替えと、確定申告用の領収を取りに来ていた。
父がにくなってから、母の雅子はここでずっと暮らしをしている。
所にむ私が週に度は顔をし、材を蔵庫に詰め、球を替え、病院の予約を取り、庭のむしり業者を配してきた。
「恭子には本当に迷惑ばかりかけて、申し訳ないね」
母はいつも、申し訳なさそうにさく笑ってそう言った。
腰がくなり、銭の計算にしがかかるようになっても、母は穏やかで、しゃばらず、何事も私に頼ってくれる「のかからない親」だったはずだった。
居の茶箪笥の引きしをける。
奥の方から、輪ゴムで留められた角の茶封筒がてきた。経劣化で輪ゴムは黄く化し、指で触れるとパチンと乾いた音をててちぎれた。
は、医療費の領収と、の振込通。
それらを仕分けしていた私の指が、ある枚ののでぴたりと止まった。
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見慣れたい緑の用。
部には、印字された文字が並んでいる。
『与所得の源泉徴収票』
支払者の欄に目を落とした瞬、臓がねた。
『限会社カタオカ精 代表取締役 片岡修司』
私の夫の名だった。
社員ほどの、さな属部品加の町。夫が義父から継いだ会社だ。
「……え?」
声が勝に漏れた。
元のをめくる。枚目、枚目、枚目。
すべて同じ、夫の会社から母に発された源泉徴収票だった。
平成から、令の今に至るまで。
枚も欠けることなく、分。
支払額の欄には、毎ほぼ同額の数字が並んでいた。
額にして、およそ万円。
額に換算すれば、万円。
母の通帳をめくると、毎、夫の会社名義で万円がきっちり振り込まれていた。そして母は、そのうちの数万円を活費としてしずつ引きし、残りを付かずのまま残していた。
のが真っになった。
。
その、母と夫と私が緒に事をした回数は数え切れない。
「修司さん、お仕事変でしょう。私みたいな寄りは、もう何のお役にもてないけれど、体だけは気をつけてね」
母はいつも、夫にお茶を淹れながらそう言っていた。
夫もまた、「お義母さんも無理しないでくださいね」と穏やかに微笑んでいた。
あれは全部、何だったのか。
は、私の目ので、何わぬ顔で芝居を打っていたというのか。
母は歳から歳になる今まで、夫の会社から料をもらい続けていた。
族を誰よりも気遣い、母の通院も健康管理もすべて完璧に把握しているつもりだった私だけが、何もらなかった。
震えるで茶封筒を抱きしめたまま、私は埃っぽい母の居にち尽くしていた。