"夫が届出た私の失踪" 第2話
タイムカードと曜のすき焼き
警察署のい自ドアをた瞬、のぬるいが全を包み込んだ。
アスファルトの照り返しが目を刺す。眩暈を覚え、私は警察署の植え込みの縁にを突いた。
夫が、私を探すために警察へった。
『妻が曜の夜から姿を消している』と証言して。
そんな馬鹿なことがあるはずがない。
私は自分のポケットからスマートフォンを取りし、震える指で通話履歴を確認した。
曜の夜、健にかけた発信履歴が件。すべて着信。
曜は――履歴がない。そう、曜は話などかける必がなかった。だって、同じに帰るのだから。
(待って。私は本当に、曜ににいた?)
恐ろしい考えがをよぎった。自分が何かな記憶の脱落を起こしているのではないか。事故に遭って、丸の記憶を捏造しているのではないか。警察官のあの疑わしげな差しが、網膜に焼き付いてれない。
「確かめなきゃ」
私はで駅の商へ向かった。
向かった先は、私が週に、パートとしてレジ打ちをしているドラッグストアだ。
自ドアをくぐると、いつものっぽい特売のポップと、漂剤の匂いがを突いた。
レジの奥のバックヤードの扉をノックし、を呼ぶ。半ばのが、段ボールを抱えたまま怪訝そうに顔をした。
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「あれ、佐藤さん? 今シフト入ってないですよね」
「、すみません、急に変なことを聞いて申し訳ないんですが……」
息をえながら、私はエプロンも着けていない私の胸元を押さえた。
「私、今週の曜、ちゃんと勤していましたよね?」
は目を丸くし、抱えていた段ボールを台のに置いた。
「曜? 昨のことですよね。ええ、いましたよ。朝から夕方まで、ロングでレジ入ってもらいましたよ。途でシャンプーの棚替えも伝ってもらったじゃないですか。どうしたんですか、急に」
「タイムカード、見せてもらえますか」
は引き気になりながらも、事務所の壁に掛けられたタイムカードラックから私のカードを抜き取ってくれた。
黒い印字で、はっきりと打刻されている。
『 08:52 17:03』
私だ。私ので、確かに打刻されている。
私は消えてなどいなかった。曜の、私は確かに社会のにし、客にをげ、レジを打ち、同僚と「今も暑いですね」と言葉を交わしていたのだ。
「……よかった」
膝から力が抜けそうになり、私は事務所の壁に背を預けた。
「ありがとうございます。し、勘違いをしてしまって」
が配そうに「佐藤さん、顔悪いですよ。丈夫ですか?」と声をかけてくれたが、私は曖昧に笑ってをた。
私は正常だ。記憶を失ってもいないし、狂ってもいない。
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ならば、なぜ健は警察へき、「妻が曜からいなくなった」と言ったのか。
歩の階段を登りながら、私は曜の記憶を必に繰り寄せた。
曜。朝から曇り空だった。
娘の奈津がをてから、がの週末はひどく静かになった。健は午、リビングのソファで聞を広げ、午はずっとテレビのゴルフ継を見ていた。
夕方、ですき焼きをべた。
健が「たまには肉でもべるか」と言って、所の精肉でし良い牛肉を買ってきたのだ。
ネギが焼ける甘い匂い。割りのちる湯気。
向かいって座る健の顔。
健はビールを喉に流し込み、私は烏龍茶をんでいた。
会話はなかった。
テレビではバラエティ番組の笑い声が響いていて、健は度ほど箸を止め、何か言いたそうに私を見た。
『……最、疲れてるのか?』
そう聞かれた気がする。
私は鍋のアクをすくいながら、『別に。パートのち仕事がし続いただけ』と答えた。
それ以、会話は広がらなかった。健は『そうか』とく返し、またテレビに線を戻した。
あれのどこが、「姿を消した」ことになるのか。
私は目のにいた。肉を焼き、卵を割り、健の空になった茶碗にご飯をよそった。
なのに夫は、その夜から私が消えたと警察に届けたのだ。
まるで、目のに座っていた私を、最初からしない霊か何かのように見なして。
胸の奥をる悪寒が、じわりと指先まで広がっていった。
健の目は何なのか。私を狂に見せかけるための罠なのか。それとも、健のので、何か決定な歯が狂ってしまったのか。